『火をつける。』



…火をつける、目に見えるものに。
…火をつける、匂いで分かるものに。
…火をつける、音で聞こえるものに。


『火をつける。』



…火をつける。
煙草に。空気に。唄に。
――思い出に。



------------------------


「花を探していた。少し前から、花を探していたんだ」
(火をつける)
「その花を持って、逢いにきてくれないか」
(火をつける、煙草に)
「死んだ後の話さ」



「花を贈りたかった。ずいぶん前から思っていたんだ。誰かに花を贈りたかった。
けど、相手なんていないんだ。だからおれには、こっちの方が合っている」
そう言って、彼は花束を捨てて煙草に火をつけた。
「あんたと出会う前の話だ」



「人は人と出逢うとき、不思議な縁を感じることがある」
彼を一息ついて、声を出した。完全な独り言。