英国大学院現地学修報告は一旦お休みして、慶應義塾大学で開催されたタイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)のイベント「ポスト・コロナ時代の日本の大学~課題と展望~」について。

 

日英の2国間関係に根差しつつも、変動する世界における高等教育の国際化の現状・意義について、日本・英国の関係者がセッションを実施。

 

 

【2022年12月13日】

 

(1)オープニング

1)THEの活動について

①コロナ禍におけるTHE Campus等による高等教育の国際展開の支援

・アリゾナ州立大学との連携

・マイクロソフトの技術的協力と高等教育機関へのオープン・プラットフォームの提供

・ブリティッシュ・カウンシル及びエルぜビア社との連携

 

(2)英国政府 特別講演:激変する世界における国際的科学分野の連携強化に向けて

 

1)ジュリア ロングボトム駐日英国大使

①日英の連携

・日・英・伊の協力による次世代戦闘機の開発

・デジタルデータの扱いに関するパートナーシップ

②三つの挑戦

・科学におけるジェンダー多様性の実現

・コロナ後の学生のモビリティの促進

・国際研究協力:新たなファンドの創出

 

2)ジョージ フリーマン英国科学・研究・イノベーション担当大臣

①日英関係と世界

・英国と日本の歴史的なつながり

・食料・エネルギー・水などの紛争の原因を解決するための科学技術における日英協力

・ウクライナ戦争の対応に地球上の全ての国が試されている中、日英はどのような協力ができるか

②科学大国としての協力

・最先端の科学

・地球規模課題への科学の適用

・研究開発の誘致

・世界的に才能ある人材の獲得

・「価値」の基づく協力

・「信頼」に基づく技術移転

③日英間の具体的協力施策

・Horizon Europeによる研究・イノベーション協力

・国際科学協力基金(International Science Partnership Fund (ISPR) )の立ち上げ

・JAXAとの宇宙分野での協力

④これまでの日英関係と今後の協力

・伊藤博文による憲法制定

・日本の高速鉄道技術やデジタル技術によるイノベーション

・ブリティッシュ・カウンシルの基金

・土台となる共通の価値観(学問の自由・言論の自由・批判的思考・太平洋の平和の維持)

 

(3)国際基調講演 :もたつく熊と上昇する龍:ロシアと中国、そしてグローバルサイエンスの未来

ジョー ジョンソン シニアフェロー ハーバード大学ケネディ行政大学院

1)危機と国際化

・研究は国際化において最も活発な領域

・地政学的リスクの学問への影響

・知識の自由な移転は「信頼」に基づく

・地政学的リスクが研究協力・研究成果にもたらす影響

・最先端の研究協力・学生交流における中国の台頭

・TSMC創業者:「グローバル化は死にかけている」

 

 

(4)全体講演:大学の未来:社会が直面するグローバルな課題に対して大学はどのような貢献ができるか

ピーター マティソン 学長 エジンバラ大学

1)如何にして大学は地政学的断絶を乗り越えることができるか

2)コロナが大学にもたらしたもの

①協力

②適応

③物理的移動を伴わない国際化

④変化の促進

⑤不平等の解決に対する要望

・具体的事例:異分野協力、デジタル化、在宅勤務、研究活動が生産的であったこと、効率性、オンライン交流、時間の有効活用、敏速性、トップダウンマネジメント、障害を持った人々への好ましい影響、デジテルの貧困の顕在化

3)国際協力とそのリスクをどう考えるか

・大学の研究成果が困難を解決すると信じて、歴史から学び、柔軟に挑戦に立ち向かうこと

・キャンパスが守られている安全な環境であること

 

4)リスクと対応の事例:パンテミック

・オンライン教育:大学の経済的状況にもよる

・国際教育:海外キャンパスはかなりのリソースを割くことと、地元の学生が地元で学習する海外キャンパスは真の国際化とは言えないと考える。

 

(5)特別セッション:ポスト・コロナのオンライン・ハイブリッド教育

1)教育モデルの転換とオンライン等情報技術の活用の事例

・動画コンテンツ(YouTube等):インプット

・反転学習(対面授業):アウトプット

・学修成果評価:Learing Management System

2)北海道-帯広畜産大学共同課程におけるハイブリッド教育

・両大学の強みのある分野を活かした共同課程における物理的距離の制約をオンラインで解消

・リアルタイム、オンデマンド双方に対応できる両大学共通のプラットフォーム構築及び機器の整備

・実際に授業を行う教員へのFDの実施及びサポート体制の構築

・両大学の教職員同士の意思疎通のための対面・オンラインコミュニケーションの重要性

 

(6)特別セッション:大学にとってのグローバル・エンゲージメント戦略

タチアナ フマソリ 高等教育研究センター長 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン

米澤 彰純 国際戦略室副室長 東北大学

1)グローバル・エンゲージメントの概念

・互いの利益実現に向けた国際的協力への貢献

2)何故グローバル・エンゲージメントなのか

①必要性:大学の置かれた状況による

・経済的理由

・国際基準への指向性(学問的理念の実現、政策的・経営的合理性)

・国際的モデルの正当性(大学ランキングなど)

②批判

・「理念化された」研究大学への指向性

・各大学の資源・立場の違いからの不平等の増加

3)グローバル・エンゲージメントの評価

①学生のエンゲージメント

・出身国・地域の多様性

・ODA対象国からの留学生

・留学生の受け入れ・派遣 等

②組織の受け入れ体制

・国際的な教職員の割合

・SDGsのカリキュラムへの反映

・国際的エンゲージメントを促進する環境 等

4)グローバル・エンゲージメントの実現

・大学の置かれた立場・資源により政策的に選択されるべきもの

5)グローバル・エンゲージメントの挑戦

・移民政策

・特定国からの留学生に依存する経済的リスク

・地政学的リスク

・社会正義

6)日本の大学のグローバル・エンゲージメント

・政府及び国際動向に対応する形でのグローバル・エンゲージメント

・日本の大学の歴史的経緯・環境等を踏まえたオンライン学修も含めた国際展開の再考

 

(7)特別セッション:ポスト・コロナの教育と研究:インテグリティ(公正性)とAIのグローバルにおける動向と今後の展望

ジェームズ ソーリー アジア太平洋地域バイス・プレジデント ターンイットイン

1)概要

・コロナ禍のオンライン教育における不正行為の増加

・コロナ禍における対面での指導機会の不足

・AIによるライティングの補助は学問的誠実とどう両立しうるのか

・エッセイは評価の方法として今後も有用な方法たりうるか

 

(8)トップパネルセッション:世界規模の課題に対して大学はどのように貢献できるのか

1)国際化

・国際化は不可逆的なものであり地政学的挑戦に対峙する必要がある

・複雑に絡み合う地球規模課題の解決に教育研究の国際化は不可欠

・オンラインによる仮想的国際化の重要性

・大学の使命は世界を良くすることであり、ランキングだけではなく地球規模課題を解決のために国際化

・例えば定員管理と財源の問題など制度的な問題も考える必要がある

・留学生を受け入れることによる日本人学生の国際化が重要

・人文社会科学分野における言語(英語)の壁がランキングの順位に影響を及ぼしている

2)地政学的リスクについて

・イギリスはブリグジット後もエラスムス・ホライゾンに参画しておりリスクの回避は可能

・知の自由な交換は相互の信頼による

・「中立的立場」の維持も重要

・広島で開催されるG7に先立ちU7を開催し、次世代のリーダーの育成についてG7に提言予定

3)国際化と価値について

・イギリスの大学は歴史的に「価値」を守ることを最重要なものとみなしていた。1大学だけではなく高等教育部門全体での対応が必要

・大学間コンソーシアムで価値を共有することが可能では

・共通の価値に基づく異分野間の協働が重要

・異なる価値観を理解するための対話の重要性

4)政策に基づき同定される価値について大学はどう考えるか

・法と法に基づく価値を考えることは大学にとって重要。イギリスでは大学のアドバイザリーボードなどを通じて研究における政府の安全保障政策などを共有し学問の自由を守るためリスクを少なくしている。

・学術の純粋性は守られなければならない

・学術の純粋性と安全保障政策の接続については留意が必要

・技術の民生・軍用利用にかかる安全保障輸出管理など大学としても苦慮している

5)国際化と財政について

・イギリスは留学生を含めた授業料についてはある程度柔軟に対応できる

・日本の大学は「規制緩和」「少子高齢化」を踏まえた国際化に伴う財政を検討する必要があるのでは

・日本の私立大学は国立大学の学費の低さに不満を感じており、学費を上げる代わりに給与型奨学金を充実させるなどの政策の転換を希望している。

6)今後の大学の連携について

・JV Campusによるバーチャルな連携と教育

・CiC連携

 

 

【2022年12月14日】

 

(1)全体講演:アジアにおける高等教育の動向と展望―日本の大学にとっての課題と機会

フィル ベイティ 最高知識責任者 タイムズ・ハイヤー・エデュケーション

1)THE世界大学ランキングについて

・大学の戦略策定のためのツールとして開発

・独自の研究成果データに基づく包括的・公平・厳密な手法により策定

・特定分野における英語以外の研究成果も評価できるように指標を改善中(レピュテーションなど)

・教育の成果についても「博士ー学士比率」「教育における研究成果(フンボルト型大学)」などより公正な指標を検討している

2)世界大学ランキングの近年の傾向について

・中国・サウジアラビアなどの大学のランキング入り等、欧州からアジアへのシフト

3)日本の大学のランキングにおける位置付け

・トップ500にランキングされている大学の平均を見ると非常にポジティブな傾向が見られる

・一方で相対的なランクについては順位を落としており、特にレピュテーションの向上のための施策が課題と考えられる。

・国際化(パートナー大学・モビリティ・優秀な人材の受け入れ)がランキングにおいて重要である。

4)大学ランキングの改善・公平化について

・例えば国際化の指標においてカタールやスイスのようなケースをどう考えるか、検討中

・ピア・レビューにおける15大学の推薦について数を増やすことも検討中

・韓国の大学のランキング向上の一つの可能性として産業界との連携があるかもしれないが、これは日本との比較としては、日本の方が純粋学問を維持しているという考え方もありうる。

 

(2)基調講演:急速に変化する世界の中の日本とその位置づけ:日本の大学への期待

1)日本の近代化を踏まえた国際化について

・明治維新後の岩倉使節団など、当時のトップが実際に欧米の事情を直接認識し、その認識に基づき日本の近代化を進めた。

・多くの日本人が留学という当時においてはリスクもある選択肢を取り、欧米の思想を学んだ。

・日本語、漢学での教育を受け、その後留学し欧米の思想を学んだ先人が日本独自の近代化を成し遂げた。

2)現在の日本の大学と国際化

・競争とトップリーダーの育成に課題がある

・日本の歴史を踏まえた国際化・国際教育の実施

・世界における日本の位置付けと果たことができる役割の認識・実現

・明治維新後の「公議輿論」のように一人一人が自分の主張を実名で発表し議論を進めることが重要

 

(3)特別セッション:開きかけたパンドラの箱ーポストコロナにおける国際教育の新たなパラダイム

1)コロナ禍前後における国際教育について

・「留学生30万人計画」は学位取得のための留学という意味では達成はできていない(日本語学校等も含まれている)

・中国・韓国・台湾の傾向の変化からも以前のような留学生政策では国際化は難しくなっている

・制度上の課題(入試)、ニーズとの乖離(高度職業人養成プログラムの提供)、留学生獲得のための専門職員の配置などの壁がある。

2)オンライン教育の可能性

・単位認定の柔軟化、マイクロクレデンシャルなどの制度などを上手く取り入れることでオンラインを活用した効果的な国際教育の実施の可能性が出てきている。

・テクノロジーを適切に使用し、双方向性・室保証されたオンラインによる効果的な教育を実施することが重要

・欧州においてもすでにコロナ前にガイドラインが発行されている。

・オンライン教育を活用することにより、ジョイント・ディグリープログラム、ダブル・ディグリープログラム、企業インターンシップなどの柔軟な実施が期待される。

・適切なオンライン教育実施が可能になれば、大規模教室での大人数相手の講義科目は無くなるのではないか。

・例えばTAについても米国におけるアクティブ・ラーニングのための配置ということにはなっていない。

・教育プロバイダーをどう考えるかという問題があり、質保証されていれば必ずしも内部の教員だけで教育を実施する必要はないのではないか。基幹教員の定義の変更などもあり、今後外部リソースの適切な活用の促進が想定される。

・学生のモビリティの管理に関連して、米国のビザ管理のように長期・短期問わずデータベース化が進展することが期待される