今の時代、「渋い俳優」を想像して誰が思い浮かぶでしょうか?

 

ダンディとか、若々しいとかいうイメージですと、けっこう頭に浮かんできますが、「渋い」というキーワードだとやはり、少し前までの方がその頭数は多かったのではないかと。

 

で、渋いも渋い、渋すぎてもう、、、という人がこの映画には出ています。

 

 

 

ジャン・ギャバンという俳優さんです。

 

今回紹介している映画『地下室のメロディ』で、若いチンピラのアラン・ドロンを誘って「大仕事」を仕掛ける悪党シャルル役を演じています(上の写真は若き日のギャバン)。

 

あの高倉健さんも尊敬する俳優の一人に彼の名を挙げていたんだとか。

たしかに「渋さ」という面では共通点があるかも......。

 

このジャン・ギャバン、なんと1904年生まれだそうです...!

(世代が近いところの著名な俳優さんで言うと、「君の瞳に乾杯」の台詞で有名なハンフリー・ボガートはギャバンの5歳年上です)

 

この世代の俳優さんには50~60年代の映画でよく出会いますが、

みなさん何とも言えない"オトコの雰囲気"を醸し出しています。

20世紀初頭生まれの方々が、ハリウッドやフランス映画の黄金期を「渋い役どころ」で支えていたんですね。

このあたりの世代の方が生きた時代を考えると、世界恐慌も二つの世界大戦も経験して、その後の「戦争が終わってカラフルになっていく世界」をも生きて映画界で活躍している、その生き様に重なる「渋さ」を出すのは中々この下の世代では難しいのかも知れません。

(たとえば1920年代以降に生まれたポール・ニューマンやスティーブ・マックイーンやジェームズ・ディーンなどは、ギャバン世代と比較すると一気に「新世代」って感じがします。)

 

 

映画の作中、若くて飛び切りかっこいいアラン・ドロンをもってしても、ギャバンの空気感に正面から対峙するのは恐れ多いといったところでしょうか。

(けれどドロンはそれでも、自信家のチンピラ役を好演していますのでご安心を!)

 

 

 

以下、作品について少し解説を......。

 

1963年公開のこちらの作品、この年のゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞しています。

監督はアンリ・ヴェルヌイユ、主演はギャバンとドロン、全編にわたって印象的な音楽を手掛けたのはミシェル・マーニュ。

 

とにかくかっこいいドロンは、これよりも前の彼の出世作『太陽がいっぱい』の時と同様、ちょっと悪い奴、いやいや「かなり悪い奴」の役が中々ハマっていて、眩しいほどの若さと時折見せる憂いの表情、危うい感じが、重厚でどっしり安定したギャバンと上手く対比しています。

 

こういう役を、中途半端なイケメンが演じても観客はいまいちエンターテインメントとして作品に入り込めないものですが、当時当代きっての美男子であったドロンなら文句なしでしょう。

 

これはあくまで僕の個人的な考えですが、

たとえば最近の『オーシャンズ11』シリーズでのジョージ・クルーニーやブラピ、先ほど名前も出たマックイーン主演の『華麗なる賭け』もそうですが、

サスペンスや暴力を描くわけではないタイプの犯罪映画には主演の俳優たちによってある種の"軽妙さ"や"華やかさ"を足さないと高揚感が出ないんです。

ほんとにただの「悪い奴の映画」になっちゃうと、エンタメとして愉しめなくなってしまいますから。

 

泥棒や詐欺師を描いた映画は数多くありますが、

思えば50年代の『泥棒成金』に始まって70年代の『スティング』まで、往年の名作は揃ってこれらの要素を持っていますよね。

(強いメッセージ性を持たせた犯罪映画群はまた別ジャンルと思っていいでしょう)

 

(最近のダメな日本映画の様に)演出をBGMに頼るわけではないですが、ポイントで流れる音楽も程よく決まっています。

 

そして個人的に映画の世界観を引き立てているなと思ったのは、

 

この映画そのものの時代。

 

60年代初頭のフランスには、40年代とかの車が走っていたんですね。

考えてみればそれは今の時代に20年前の車が走っていても何ら違和感がないのと同じことで、街の光景がまるっきり今とは違っていて、驚きました。冒頭に出てくる鉄筋作りのマンション群もあの時代のパリの一片なんですね。何とも言えない雰囲気。

ギャバンが立てるアナログ感たっぷりな犯罪計画も、このアナログ感たっぷりな時代があってこそ。

 

登場人物たちの60年代ファッションや、今の会話では中々出ない台詞も、

作品を撮った時代が成した輝きです。

 

しかしそんな中にも、

この名画はとても今から55年も前に撮られた作品とは思えない洗練された世界観も備えています。

 

まさに「いやあ、映画っていいものですねぇ~」と思わず口から漏れてしまう映画ではないでしょうか。