著者:阿津川 辰海

 

大野探偵事務所の所長・大野糺(ただす)が誘拐された⁉ 耳が良いのがとりえの助手・山口美々香は様々な手掛かりから、微妙な違和感を聞き逃さず真実に迫るが、その裏には15年前のある事件の影があった。誘拐犯VS.探偵たちの息詰まる攻防、二転三転する真相の行方は……。新世代本格ミステリーの旗手が描く今年最大の逆転ミステリー開幕。 本当に騙されていたのは誰だ?(Amazon)

 

 

耳がどうこうじゃなく、ただの天才 

 

冒頭、不穏な逮捕現場の描写から始まり、
そこから時間を遡って、
最後はまた現在に戻ってくるという構成。
 
作者も後書きで述べているけど、
令和の誘拐をどう描くのか、
ここに注目して読み進めていった。
 
ラスト30ページくらいからの真相解明パートでは、
DNA鑑定をすり抜ける仕掛けを打った真犯人も無事に捕まる。
 
ただ、そこで物語は終わらず、
犯人逮捕の決め手となった、
物的証拠が出るに至るまでの誘拐実行犯とのやりとりや、
探偵の助手である美々香の秘密が解き明かされていく。
 
実は美々香は「耳が聞こえない状態」で推理を進めていた。
「誰よりも耳が良い」という本の帯から罠が仕掛けられていたのだ。
 
美々香の状況を察した大野糺は、
囚われの身ながらも誘拐犯と交渉し、
真犯人の裏切りを炙り出していく。
 
美々香が天才扱いされているが、
大野はそれを手のひらで転がしているので、
結局のところ、やっぱり実力は大野が上手だと思った。
 
特に動画を2回撮影して、
音声とは異なる口の動きを美々香に読ませるという展開が好きだった。
 
また、後日談は省き、
真相を出し尽くして一気に終わる潔さは好感触だった。
 
ただ、惜しい点もある。
ロジックとしての完成度は高いものの、
説明臭さが強かったことだ。
 
シンプルに言うと、人間臭さが弱かった
 
もっと血の通った人間味が感じられたらさらに面白かったかもしれない。
 
例えば後半の糺の挙動。
爪がはがされているにもかかわらず、
犯人を追い詰める推理に結構しらふで入ってきてくるあたりとか、
「そんな悠長なこと言ってられる状態か?」と違和感を感じた。
 
この作品を読むと、
令和で誘拐を成功させるのがいかに困難であるかを思い知った。
 
あらゆる技術が進んでいるので、
誘拐実行犯のカミムラのように、
演者を使った大規模な作戦を仕掛けていかない限り、
素人に手を出せる領域ではない。
 
誘拐なんてするもんじゃないね。
 

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1:逆転美人

2:録音された誘拐 NEW