監督:ヨルゴス・ランティモス
主演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ラミー・ヨセフ、ウィレム・デフォー
 

「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンが再びタッグを組み、スコットランドの作家アラスター・グレイの同名ゴシック小説を映画化。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最高賞の金獅子賞を受賞し、第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞ほか計11部門にノミネートされた。

不幸な若い女性ベラは自ら命を絶つが、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスターによって自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカンに誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。

プロデューサーも務めるストーンが純粋無垢で自由奔放な主人公ベラを熱演し、天才外科医ゴッドウィンをウィレム・デフォー、弁護士ダンカンをマーク・ラファロが演じる。「女王陛下のお気に入り」「クルエラ」のトニー・マクナマラが脚本を担当。(映画.com)

 

2023年製作/142分/R18+/イギリス
原題:Poor Things
配給:ディズニー
劇場公開日:2024年1月26日

 

 

映画<<<アート 

 

どえらいものを見た。
 
鑑賞後も何を観たのかを整理できない。
こんな感覚はなかなかない。
 
でも、映画として興奮したかといえば、
そこは弱い点もあった。
 

 

  グッと来た点

 

①エマ・ストーン
 
エマ・ストーンを語らずして、
この映画は語れないと言うくらい、
エマ全部出しだった。
 
文字通り裸でSEX三昧というハードな設定をこなしているのもそうだが、
SEXシーン以上に、
胎児の脳を移植されたベラが徐々に知識を蓄え、
知的になっていく成長過程に狂気すら感じた。
 
これは普通にオスカーとっちゃうなぁ
 
 
②世界観
 
初っ端。
 
真っ白のシーツみたいなものに刺繍されていて、
その周りにテロップ出てるなと思ったら、
監督の名前だった。
 
文字が画を邪魔しないように監督の名前も、
その一部となり作品に溶け込んでいる
 
そこからは現実のようで現実じゃない、
異様な世界が次から次へと映し出される。
 
この景色が物語に説得力を与えていて、
あらゆるセンスに脱帽しっぱなしだった。
 
 
③ベラの衣装
 
その日1日を過ごすベラの服は毎回違う。
 
パリコレでも見ているかのような、
生活しづらそうで、
可動性に乏しい服が次から次へと繰り出される。
 
ただ、それらが作品の世界に見事にマッチしていて、
物語、背景、服装、
そんな個性的な石同士を当たり前のように積み上げている
 
このバランス感覚は只者ではなかった。
 
 
④奇想天外な物語
 
ずっと胎児の頭で快楽に落ちて行く話かと思ったら、
とんでもない成長ストーリーだった。
 
序盤のベラは完全な赤ちゃんだったが、
後半のベラは何かの博士、
はたまた文筆家のような語り口。
 
序盤で赤ちゃんベラを舐めきっていた僕は、
後半のベラの知性に完全にノックアウトさせられていた。
 
 
⑤マダム
 
中盤、船の上でマーサというマダムと出会う。
このマダムのどっしり構えたたたずまいが良かった。
 
「自慰行為はするの?」という初対面のベラからの質問に、
「うん、たまにやってるよ」くらいで軽く返す器量。
 
人生を楽しみ切って、
残りの時間を楽しんでるマーサに強く惹かれた。
 

 

  惜しい点

 
①映画としての盛り上がり
 
概ね大絶賛なのだが、
映画としての盛り上がりは弱い。
 
将軍に連れ去られ、
連れ帰って来たときに、
父親代わりのゴッドの脳を将軍に移植してゴッドが再生するかと思ったら、
ヤギかなんかの脳みそを移植され、
将軍がヤギ化。(モシャモシャ草食ってた)
 
それを微笑ましく眺めながら本を読んで終わって行く。
 
将軍のくだりで、
もうちょっと盛り上がり、
またはサプライズを仕込んでくれたら面白かったのになぁ。
 
上映中ずっと面白かったので、
何か盛り上がりは欲しかった。
 
 
②追いつけない
 
作家性が圧倒的に強い作品で、
そのレベルが尋常じゃないから、
僕のような凡人は追いつけなかった。
 
もっと知性を持って鑑賞できたら、
この作品の深さをさらに味わえたのだろうが、
なかなか距離を離されてしまった。
 
なので「盛り上がり」が欲しいという、
安直な選択にすがってしまった。
 

 

  感想

 

映画を見ているというよりも、
美術館を歩き回っている感覚に近かった。
 
性描写はショッキングであるものの、
何度も繰り返されると目も肥えて来て、
それが生活に必要な一部であるような感覚を味わう。
 
この作品に存在するあらゆるものが異様なのだが、
全部それが日常の姿であるように見せてくる作品の底知れぬ力を見た。
 
相当嗜好性を相当問われるが、
記憶に残る作品であることは間違いない
 
映画体験というのにふさわしい作品だった。
 
 
だが、カップルで行くのはお薦めしない。
 
お互いの趣味嗜好がフィットしていればよいが、
これはそう簡単な代物ではない。
 
僕の見た回でもカップルはいたが、
上映後は口を閉ざして気まずそうだった。
 
そりゃそうだわな!