監督:三木孝浩
主演:竹内涼真、横浜流星、高橋海人、石丸幹二、上白石萌歌、児島一哉、ユースケ・サンタマリア、奥田英二、江口洋介
「半沢直樹」シリーズなどで知られる人気作家・池井戸潤の同名小説を、竹内涼真と横浜流星の主演で映画化。
父親の経営する町工場が倒産し過酷な幼少時代を過ごした山崎瑛と、大企業の御曹司だが次期社長の座を拒絶し血縁のしがらみに抗う階堂彬。同じ名前を持つ2人は運命に導かれるかのように、日本有数のメガバンクに同期入社する。人を救うバンカーになるという熱い理想を持つ山崎と、情を排して冷静に仕事をこなす階堂。正反対の信念を持つ2人は真っ向から対立し、ライバルとしてしのぎを削る。しかし山崎は、ある案件で自らの理想と信念を押し通した結果、左遷されてしまう。一方、順調に出世する階堂の前にも、親族同士の争いという試練が立ちはだかる。やがて、数千人の人生を左右する巨大な危機が到来し、山崎と階堂の人生が再び交差する。監督は「思い、思われ、ふり、ふられ」「僕等がいた」の三木孝浩。(映画.com)
2022年製作/128分/G/日本
配給:東宝
劇場公開日:2022年8月26日
会社経営<娘の命
予備知識0の状態でアマプラで鑑賞。
池井戸潤らしく、大逆転劇だった。
グッと来た点
①アキラとあきらの交錯がうまい
最初、彼らがどう絡むのか全く予想できず、
銀行でしのぎを削っていくのかと思っていた。
しかし、ライバルだった二人がそれぞれ別のキャリアを積み、
バンカーと経営者という関係になっていく様子はとても面白く、
思わず「潤、うまいなぁ」と思った。
②あるべきバンカーの姿
最初の赴任先で山崎が町工場の社長の娘を救うため、
銀行の解約を指示し、左遷させられるくだりがある。
山崎が左遷先で苦しんでいる時に、
待ち工場の社長から「娘が救われたのは山崎さんのおかげで、今、私たちは幸せです」
という趣旨の手紙を受け取るのだが、
ここは山崎と一緒に僕も泣いていた。
そりゃそうよ。
娘が生きてくれていたらそれだけで幸せ。
会社はまたチャレンジできるかもしれないけど、
命は一回きりだから、ましてや娘だし。
ということで、山崎の行動は共感しまくっていた。
バンカーとして預金を預ける事だけが仕事ではなく、
人を救済するという信念を持つ山崎にとって、
この件が、後の東海郵船救済への布石となる。
「ただの金貸しではない」というバンカーの矜持を見た。
③社長として会社を背負うという事
もうひとりのあきら、階堂は経営者になる。
大企業ならではの家族の内輪もめが嫌で一度は家を離れていたのだが、
弟が社長に就任。
その後、莫大な負債を抱えて弟は社長を退任。
弟の跡を継いで階堂がグループの舵を取ることになる。
弟が経営のかじ取りをしていた時は専制君主のようにふるまい、
兄に対するコンプレックスから叔父の口車に載せられてリゾートホテルの連帯保証をしてしまう。
そこから経営が一気に傾き、心労からどんどん壊れていく。
この君主っぷりは昨今のビックモーターの副社長を想起させた。
きっとBMの副社長はこんなの目じゃないくらい劣悪だったんだろうけど。
で、階堂が舵を取ってからも荒波が続く。
最後はにっくき叔父二人にも土下座をして、
どうにか会社を、そして社員を守りたい。
そんな一心でグループを一つにまとめていく。
これが経営するという事なのか。
背負うということの重さが伝わって来た。
1流の資本を持つ、2流の経営者。
2流の資本を持つ、1流の経営者。
どっちに融資をするか。
そんな問いが劇中にあるが、1流とは、ただ優秀という事ではなく、
「腰掛なのか、本気なのか」これが大きな差だと感じた。
この作品に出てくる叔父のような経営者は日本にもゴロゴロいそうで、
ちょっと寒気がした。
④結局あきらめないということ
どんな苦境に立たされても、
どこかに活路を見出し、
そこから解決の糸口を探っていく。
東海グループは結果、140億の融資を得られるのだが、
その過程は荒れに荒れた大海原に船を出すようなものだった。
ただ、山崎も、階堂も生き残るための方法を探っていく。
その過程が割と丁寧に描かれている。
上手くいきそうで、上手くいかない。
でも、諦めない。
結果うまくいく。
シンプルだが大切な事が詰まっていた。
主演二人のフレッシュな演技が「諦めない気持ち」をより一層引き立てていた。
⑤不動本部長がぶれない
「確・実・性」を信条に、
確実性のない稟議は一切通さない不動本部長(江口洋介)。
この信条に反した山崎は一度左遷を食らっている。
ラストの東海郵船の融資の稟議を通す際(おそらくこの映画の大トロはここ)、
不動本部長へ稟議の提案をする。
辞職をかけて挑んだ稟議提案は、
最終的に決済される。
歓喜に胸が躍る山崎。
本部長に感謝を告げると「確実性のあるいい稟議だった」と返す。
どこまでも確実性を追いかけ続けるぶれなさが最高にクールだった。
こんな固い人、友達になるのはごめんだけど。
惜しい点
①あと30分長くても良かった
テンポが良く、展開が早いので、
もう少しエピソードの詳細を掘り下げることが出来たらさらに面白さは増したと思った。
地方に左遷になった山崎がどのように結果を残したのか、
階堂が会社経営を担ってからの弟と絆を回復していく過程など、
もっともっと見たかった。
原作は見ていないが語れるエピソードはあったかと思うと、
こういう映画こそ、2時間とは言わず3時間ちかい長さでも良いと思った。
端折るにはもったいない気がした。
②伝説の一日は言い過ぎ?
冒頭の山崎、階堂の入社時のプレゼン大会の内容が「伝説の一日」と評されている。
粉飾決算で勝負をかけた階堂のたくらみを、
銀行側の山崎が見破ったというものだが、
これが「伝説」かというと、弱い気がした。
伝説というのであれば、
もっと二転三転の展開があり、
プレゼンというよりは鬼気迫る議論の応酬が欲しかった。
伝説という割には以外にもあっさりと勝敗は決して、
結局、粉飾を見破った程度でしかなかったので、
「伝説の一日」という言葉のチョイスがまずかった。
「語り草」程度で良かった気がする。
感想
結果、不満な点はほとんどなく、
むしろもっと楽しみたかった僕がいた。
「どうせ大和田常務みたいな敵が現れてそいつに倍返しでしょう?」
という浅はかな仮説は粉々に打ち砕かれ、
いい意味で裏切られた。
池井戸原作の映画の中では「七つの会議」に次いで良かった。
バンカーの面白さと、大変さが良くわかる内容だったし、
経営は生き物で、経営者が変わるだけで会社が大きく変わり、
どんな大企業も一瞬にして存在価値を失ってしまう怖さも感じた。
「宿命」という言葉が出てくる。
僕は「ご縁」を大事にするスタンスなので、
「宿命」という言葉の重みとはちょっとニュアンスは別だが、
出会いや、努力はどこかで交錯するという点で似ている考え方は多く、
この映画のメッセージはすっと入って来た。
エキサイティングで良い作品だった。