監督:マーティン・マクドナー
主演:コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、バリー・コーガン、ケリー・コンドン
「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督が、人の死を予告するというアイルランドの精霊・バンシーをモチーフに描いた人間ドラマ。
1923年、アイルランドの小さな孤島イニシェリン島。住民全員が顔見知りのこの島で暮らすパードリックは、長年の友人コルムから絶縁を言い渡されてしまう。理由もわからないまま、妹や風変わりな隣人の力を借りて事態を解決しようとするが、コルムは頑なに彼を拒絶。ついには、これ以上関わろうとするなら自分の指を切り落とすと宣言する。
「ヒットマンズ・レクイエム」でもマクドナー監督と組んだコリン・ファレルとブレンダン・グリーソンが主人公パードリックと友人コルムをそれぞれ演じる。共演は「エターナルズ」のバリー・コーガン、「スリー・ビルボード」のケリー・コンドン。2022年・第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門でマーティン・マクドナーが脚本賞を、コリン・ファレルがポルピ杯(最優秀男優賞)をそれぞれ受賞。第95回アカデミー賞でも作品、監督、主演男優(コリン・ファレル)、助演男優(ブレンダン・グリーソン&バリー・コーガン)、助演女優(ケリー・コンドン)ほか8部門9ノミネートを果たした。(映画.com)
2022年製作/114分/PG12/イギリス
原題:The Banshees of Inisherin
配給:ディズニー
「承認欲求の果て」
日曜日の映画館でレイトショーだったので、
お客さんは僕含めて4人。
じっくり堪能できました。
前半~中盤は、
コルムの絶縁宣言からのパードリックの狼狽を描写し、
中盤~後半にかけては、
パードリックの環境が悪化、
そしてコルムへの逆襲という構成。
寂しがり屋の大人の質の悪いことったらなかった。
正直、僕はコルム派。
別にみんなでつるむ必要はない。
(生きてりゃぁ「合う人合わない人」はいる)
さらに、コルムの言う人生の残り時間を考えた結果、
自分が何かを残したいという思いも共感できる。
(かといって指を切ることはないが)
一方、パードリックについては、
寂しい気持ちはわかるが、
コルムに絡みすぎ。
こんな風にパードリックに絡まれ続けられたら、
コルム同様に鬱陶しく思うかもしれない。
コルムが指一本失って、
「次は4本行くぞ」と警告をしていたのに、
勝手にコルムの家に上がり込んできたときは、
「そういう所だぞ!パードリック!」
と、心の中で叫んでいた。
むしろ、完全にフリに応えているパードリックを見て、
「コルムのフリが良すぎたのがいけなかったのではないか」
と、錯覚するくらいだった。
パードリックには草薙龍瞬さんが書いた、
「反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」」
をぜひ読んでいただきたいと思った。
反応しすぎである。
何もやることがない小さな島だからか、
嫌われるのが嫌だからなのか、
承認欲求を踏みにじられたのはわかるが、
パードリックはいちいち反応して、
コルムにかまって欲しがる。
しまいには音大生を追い返すという意地悪にも走る。
振り向いてほしく仕方がないのだ。
で、振り向いてくれなかったのと、
妹が出て行ってしまった寂しさと、
コルムの投げた指を飲み込んで窒息死したロバのリベンジで、
最後はコルムの家に火をつける始末。
とんだ駄々っ子。
今では考えられないようなシチュエーションだが、
それが1923年という時代を設定にしているのがうまい。
他にこれしか手段がないというのを1923年という設定一つで、
結構解決しているし、
情報が手紙や伝聞でしかないから、
島という広いフィールドなはずなのに、
極端にクローズドな世界を作っている。
点数が伸びなかったのは、
①死神みたいなお婆さんが2人死ぬといって
、ドミニクが死んだが、
「もう一人は誰だったのか」がはっきりしなかった。
(予想が外れたとか?)
②ラストがモヤモヤ。
2人の喧嘩に決着をつけるのではなく、
ここからさらに内戦の如く続くみたいな感じが、
すっきりしなかった。
大傑作「スリー・ビルボード」も結末をはっきりはさせないが、
ラストの展開は「これ以上ない!」という最高の終わり方だったので、
それと比べると、
テイストは似ているようだが本作はモヤモヤが晴れないままだった。
なので、このモヤモヤ感が減点要因となっている。
ここまでややこしい喧嘩をさせたのなら、
最後はドカーンと驚くような仕掛けがもう一つ欲しかった。
俳優の演技は良かった。
特にコリン・ファレル、バリー・コーガン。
この二人は「THE BATMAN ザ・バットマン」で、
ペンギンとジョーカー役で出演している。
バリー・コーガンは今後もかなり活躍する俳優になりそうだ。
コリン・ファレルは眉毛がいい。
劇中も感情を眉毛で表現していて、
なんとも情けなく、なんとも悲しげで、
この眉毛で役を勝ち取ったのかという表情がなんともたまらなかった。
スリー・ビルボードというとんでもないハードルを自身で設けてしまったものの、
さすがマーティン・マクドナー監督。
ただものじゃない作品を生み出してくれた。
もう少しこうしてくれたらという個人的な願望こそあれど、
これまた癖のある作品で十分に楽しかった。
むしろ、スリー・ビルボードみたいな傑作を2作続けてやられたら、
他の監督が作品作れなくなりそうなので、
これくらいがちょうどよかったかもしれない。
バリー・コーガンのジョーカーも紹介しておきます。
パードリックにお勧めしたい本。