【シンガポール=吉村英輝】オランダ・ハーグの仲裁裁判所が、南シナ海での中国の主権主張を退けた裁定を受け、提訴国フィリピン同様、南シナ海の領有権で中国と対立するベトナムが外交を活発化させている。経済的に依存する中国に配慮しつつ、国際社会と協調して中国の進出圧力に対抗する構えだ。

 チャン・ダイ・クアン国家主席は30日、訪問先のシンガポールで講演し、南シナ海情勢について「信頼を損ない、緊張を高める動きがある」と指摘。名指しを避けつつ、人工島の軍事拠点化を強行する中国を批判し、国連海洋法条約を含む「法の支配」を訴えた。

 4月の国家主席就任後、クアン氏がシンガポールを訪れたのは初めて。29日にはリー・シェンロン首相らとも会談し、「南シナ海の航行や飛行の自由の堅持」を再確認する共同声明を発表した。

 両国は、中国の圧力という共通の悩みを抱える。シンガポールは南シナ海の領有権問題を抱えないが、今年の東南アジア諸国連合(ASEAN)の対中窓口国として、仲裁裁定の尊重を求め中国と対立。9月6日からラオスで始まるASEAN首脳会議を前に、足並みをそろえた格好だ。

 一方、ベトナムのゴ・スアン・リック国防相は、4月の就任後初めて訪中し、29日に李源潮・国家副主席と会談した。南シナ海での緊張回避も議題となったとみられる。

 仲裁裁定は、スプラトリー諸島に排他的経済水域(EEZ)を伴う「島」は存在しないと判断した。訴訟当事国でないが、同諸島に複数の実効支配地を持つベトナムの主権主張にも影響する“もろ刃の剣”だ。

 一方、中国が1974年の占領から全域を実効支配するパラセル(西沙)諸島について、ベトナムが仲裁裁定を求めれば、中国の主権主張の否定を勝ち取れるとの目算もある。

 東南アジア研究所(シンガポール)のレ・ホン・ヒャプ氏は、フィリピンの事例を参考にしながら、ベトナムが国際社会で「仲裁裁定をテコに対中外交を展開している」と指摘した。