労働者が業務災害により負傷・疾病・死亡した場合、その労働者を雇用する事業主は、被災労働者(又はその遺族)に対して、療養補償・休業補償・障害補償・遺族補償などを行なわなければならない。(労働基準法の規定)


 これらの補償は、事業主の無過失責任であり、被災労働者が退職したからといって打ち切ることはできない。この費用は大きな額になるので、まともに払っていたのでは大変な負担になる。そのために事業主は労災保険(正式名称「労働者災害補償保険」)に加入し、万が一の場合に備えるべきなのだ。つまり、労災保険はそもそも「事業主の為の保険」なのである


 世の中にはこすからい事業主も多く、この保険に加入していないところもある。だからといって、労働者が泣き寝入りをすることはない。労災補償は国家が行なうもので、雇い主のいる労働者全員が給付対象となる。たとえ事業主が労働保険料を支払っていなくとも、その事業所で働く労働者には、労災認定を申請する権利があるのだ。

 過重・超過労働が原因で死亡する「過労死」も労働災害に含まれるが、それが業務によるものとして認定されることはめったにないというのが、現状である。

 近年、過労死がマスコミ等で採りあげられることが多くなったわりに、申請する人はそう増えていない。過労死じたいが減った証拠だ、などと脳天気な戯言をぬかす経営者もいるが、こんな馬鹿者に騙されてはならない。


 建設業や運送業など、比較的危険性の高い仕事に関わる労働者は、労災に関する意識が高いが、そうでない人々は、驚くほど低意識だ。自分には関係ないとさえ思っている、さらには、労災やその補償について知らないという人すら、少なくない。このような人々は、何も知らないまま、労災認定の時効(死亡と身体障害は5年、その他は2年)が過ぎてしまうことになりかねない。


 一方、なんとか労働基準監督署へ出向き、労裁申請の相談をしてみても、

「認定されることはめったにないですねえ」

などと冷淡に言われて、気力が失せるという人もいるだろう。

 私事だが、以前自分の身内が、勤務中事故にあった。明らかに会社側の杜撰な管理ゆえだったが、会社はそれを認めなかった。被災者の父と一緒に、地元の労働基準監督署に出向いたところ、窓口に出た役人は、

「監督署が入るのはいいですけど、こちらは杜撰な点をあれこれ指摘して、会社にああしなさい、これを直しなさい、と指導することしかできませんよ」

「会社が監督署に怒られることによって、腹癒せになるんなら、それでもいいですけど、それしかできないですよぉ?」

と言うだけだった。


 そのとき自分は若くて無知だったから、そんなものかとがっかりするだけだったが、今思うとムカムカしてくる。あの役人は、労災申請について何ひとつ説明しなかった。どうせ認定の望は薄いと勝手に決めたのか、そんな知識もなかったのかはわからない。単なる不親切か無知かはともかく、役所というのは、そういうところなのだ。


 確かに、あのとき窓口にいた役人は、学校を出たばかりと見える若造だった。まだまだ無知だったのかもしれない。

 しかし、そういう人間を窓口に出し、一人で客の応対をさせるじたい、役所が杜撰で不親切だということなのだ。こんな役所が、労災認定のためにどれほど働いてくれるというのだ。