「よろしく!」
差し出された左手。
彼の名前はキム・ジュンス。
「僕はパク・ユチョン。よろしく。」
僕はその左手を愛想笑いと一緒に握り返した。
ジュンスは僕と同い年なのに、メンバーの中で一番長い練習生期間を過ごしてきたらしい。
そのことはスカウトされて事務所に入った僕としてはなんだか引け目を感じたし、
なにより、その人なつっこい笑顔を向けられると、
恥ずかしいんだか気まずいんだか・・・とにかく僕はジュンスが苦手だった。
なのに、年が同じということと、ジュンスが面倒見がいいから、という理由で
部屋割りが一緒になってしまった。
これはこの頃の僕にとってはあまり好ましいことではなくて、
気を遣ったり、メンバーとの慣れない話題に無理について行くことも手伝って
ストレスの元になってしまっていた。
本当につらくなったときはアメリカに残してきてしまった母と弟のことを考える。
懐かしい気持ちと申し訳ない気持ちで余計につらくなるだけだと分かっていても、
他に気持ちを持って行く場所がなかった。
その日はジュンスが他のメンバーとリビングでゲームをしている間に
一人部屋に籠もって泣いていた。
2段ベットの下の段は僕のスペースなのでカーテンを閉めて、頭から布団を被る。
泣いているなんて間違ってもジュンスに知られたくなかった。
だからいつもジュンスがいないと分かっている間にこうして泣いていた。
-ガチャ-
突然部屋のドアが開いた。
部屋には鍵が付いていないので、誰でも入れる。
足音でジュンスだと分かる。
僕は寝たふりをした。
早く、居なくなって欲しい。
「ユチョン?寝てるの・・?」
そう言ってジュンスは2段ベットのカーテンを開けた。
勝手に開けられたことにも相当イライラした。でもジュンスはそんなこと気がつかない。
「ねぇユチョン、体の調子良くないの?」
ジュンスは背を向けている僕の肩をかるく揺する。
今となっては心配してくれたんだろうと分かるが、
その時は冷静に判断できるような精神状態じゃなかった。
「なにもないよ。」
ぽつりとそれだけ言う。
「ユチョン、起きてるの?なら一緒にゲームしようよ。皆ユチョンがいないからって心配して・・」
「うるさい!」
言うなり飛び起きると、
僕はジュンスを思いっきり睨み付けた。
「別にジュンスには関係無いじゃない!心配してくれるのはありがたいけど・・、もうほっといて・・!」
そこまで言って目頭が熱くなった。
「ユチョン・・・君・・・泣いて・・」
ジュンスの心配そうな顔がうっすらと滲んで行く。
「もういいから。早く行って。」
ごまかせるはずないのに顔を背けて、僕はそれ以上ジュンスの顔を見ようとしなかった。
「ごめん・・・・」
ジュンスの声が途端にしおらしくなった。
ちょっと心が痛んだけどそんなこと知るか。
人の心に土足ではいってくるジュンスが悪い。
でも・・・ジュンスが部屋を出て行って静かになったあとでも、一度溢れた涙はなかなか止まらなかった。
それから僕とジュンスはほとんど会話すらしなくなった。
でも仕事ではいつも隣にいるジュンスに向かって話しかけない訳にはいかなくて、
端からみても相当ぎこちない間柄に見えていたと思う。
ジュンスもこの間のことをかなり気にしているらしく、
遠慮無く僕に話しかけることはしなくなった。
だんだんと僕たちの異変に気がつき始めた他のメンバーから、
二人の部屋を別々にしたらどうか。と言う話が出たのはジュンスに涙を見られたあの一件から
1ヶ月ほど経った時だった。
ジュンスは今まで一人部屋だった末っ子チャンミンの部屋へ。
僕は今の部屋を一人で。という案だった。
「正式に決まったわけじゃないけど・・・」
とリーダーのユノヒョンからその話を聞いたとき、
僕はチラっとジュンスの表情を伺った。
ほとんど無言で頷いたジュンスの表情からはなんの感情も読み取れなかった。
僕は僕で「わかりました」と返事をするよりなかった。
本当なら嬉しいことのはずなのに、なぜだかちっとも嬉しくなかった。
僕たちの部屋割り変更の話がでてから1週間後の夜のこと。
その日は天候が荒れたために外は何年ぶりかの大雪でかなり冷え込んだ。
まだデビューしたてだった僕らの宿舎には全てに部屋に暖房が付いているわけではなくて、
僕たちの部屋は運悪くその暖房の無い部屋だった。
部屋の電気を消して、とにかく服を着込んで毛布にくるまって横になるが
とにかく寒い。
しかも服を着込んで横になっても息苦しいのでなかなか眠れなかった。
2段ベットの上にいるジュンスも時折起き上がっている気配があるので同じような状態なのだろう。
横になってもかえって手足が冷えるだけなので
僕は毛布にくるまってベットの上に座ったまま寝てしまおうとしていた。
「ユチョン・・?」
突然頭上から声が聞こえた。
2段ベットの上から、ジュンスが話しかけている。
「なに?」
気まずいこともあるのでつっけんどんな返事になってしまうのは仕方無い。
「寒くない?」
ジュンスは少し声が震えている。
「寒い。」
そんなこと分かりきってるのに。
突然ベットが揺れた。
上段でごそごそジュンスが動いている。
ズルズルと毛布を引きずる音がする。
ストン、という音がしてなにかが床に落ちた。
「ちょっと、こんな夜中になにやってんの」
そう言ってカーテンの隙間から顔だけ出す。
カーテンの外側は部屋の中なのに本当に寒かった。
目の前には自分の毛布を持って立っているジュンス。
「・・・・どうしたの?」
俯きがちに立っているジュンス。
僕は訳が分からなくて立ち尽くすジュンスをまじまじと見つめる。
明るい茶色の髪がそとの雪明かりに照らされて輝いて見える。
「寒いから・・・・一緒に寝てもいいかな?」
ジュンスはそれだけ言うと顔をあげて僕の目を見た。
「え・・・ちょ、ちょっとなに言ってるの・・!」
慌てる僕。
「僕嫌なんだ・・・寒いの。」
ジュンスは懇願するような目で僕を見る。
その目に諦めそうな気配はない。
「いや・・・ちょっと・・・・・・・いや・・・・あぁー!もう!わかったよ。
僕はじに座って寝るからジュンスここ使って。」
ジュンスの瞳に負けた。僕はベットの端に移動する。
「それじゃ意味ないじゃん。ユチョン。」
言われてみて確かに、と思う・・・・でもそれじゃ・・・。
「一緒に抱き合って寝ないと。」
笑顔でそういうジュンスは僕の許可も待たずにさっさとカーテンを開けてベットに入ってきた。
「ちょ、ちょっと待って!」
さすがに暗くてなにがなんだかわからないので、寝る前に読書する時に使っている
壁かけのライトを点ける。
カーテンと部屋の壁で仕切られた2段ベットの空間に、明かりが灯って
少し寒さが和らいだ気がした。
ジュンスはおもむろに着ていたパーカーを脱ぎ出す。
スウェットのズボンとTシャツ一枚。
「それじゃ余計寒いんじゃないの?」
僕は寒そうに自分の腕をさすっているジュンスに言った。
「いや、人間の肌が一番温かいんだって。」
ジュンスはケロッとした顔で言う。
僕は何故か顔が熱くなった。
これからどうゆうことになるのか想像してしまったこともある。
「ジュンス・・よくもそんなこと平気で言えるな。」
「だって、寒いの嫌なんだもの。ほら、ユチョンもはやくパーカー脱いで。
僕もう寒くて仕方ないよ。」
「な・・・僕も脱ぐの?」
思わず後ずさる僕。
「当たり前でしょ。言ったじゃん、人間の肌が・・・」
「だぁーーもう分かった、分かったから!それ以上言わなくていい・・っ!」
必要以上に慌てる僕を楽しむようにジュンスが微笑んだ。
その笑顔をみて僕も観念し、渋々着ていたパーカーを脱いで
その下に着ていた長袖シャツも脱ぐ。
ジュンスと同じようにTシャツとズボンになる。
むき出しの腕や首に部屋の寒さが一気にしみてくる。
「寒・・・っ!!」
あわててジュンスの分の毛布も重ねると、そのまま横になって毛布から顔だけ出す。
ジュンスは来たはいいもののどうやって寝ようか考えて居るようで
その場に座っている。
「・・・そういえば、枕は?」
「忘れた。」
ジュンスは上を指さしながらいけしゃあしゃあと答える。
「じゃあどうやって寝るつもり?もう寒いから早く。」
薄着になったことでどんどん体温は奪われるので、出来れば早く寝てしまいたい。
最悪枕半分譲っても構わない、と思い、体を少し移動させる。
「分かった。ユチョン、腕。」
そう言ってジュンスは枕をポンポンとたたく。
「は・・?」
口が開いてしまう。
「だから、手をここに伸ばして。」
よく分からないままジュンスの言われた通りに右腕を枕の下あたりに伸ばす。
「うん、これで寝れる。」
ジュンスは勝手に満足してそう言うと、そのまま毛布を持ち上げて
するりと潜り込んでくる。
そのまま枕の半分に頭を乗せる。
ジュンスの首の下には、僕の腕。
「ジュンス・・・!なんで僕こんな腕枕みたいなことしなきゃいけないの?!」
慌てて腕を引っ込めようとした僕を見て
ジュンスが引き留める。
「これでくっついて寝るのが一番あったかいんだって。大丈夫でしょ。僕男だし。」
いたずらっぽくそう言うジュンス。
そうゆう問題じゃない気がしたけど、いつまでもうだうだ言っても寒いだけなので渋々従う。
「電気消すね。」
そう言ってライトのスイッチに手を伸ばす。
パチッと音がしてあたりが暗くなる。
二人分の毛布と、ジュンスのアドバイスのおかげかどうかは分からないが、
段々と暖かくなってきた。
これならなんとか寝れそうだ。
「ユチョン、右手寒いでしょ。」
ジュンスに言われてみると、確かに右手はジュンスの首の下に敷かれていて
毛布に入っていないので寒かった。
声の方向からしてジュンスは僕の方を向いて寝ているようだ。
「右手で僕の肩を抱いてくれれば寒くないよ。」
ちょっと待て、そんなことできるわけない。
「大丈夫だって。僕男だから。」
ジュンスは僕の気持ちが分かったように小さく笑った。
さんざんためらってから僕は右手をジュンスの肩を抱くようにした。
確かに寒くはなくなったけど・・・・。
「ユチョン・・?」
まだ何かあるのか・・こんな状態で。
「なに」
恥ずかしいのを隠すようにとがった声を出す。
「僕・・・ユチョンと仲良くなりたかったんだ・・・」
右手がぴくりと反応する。
「こないだ、皆でゲームしてたんだけどユチョンが居なくて・・・皆には寝てるんだろうからそっとしといてやれ、って言われたんだ。でも、心配になっちゃって・・・あんなにユチョンを怒らせちゃうなら、皆の言うこと聞いとけばよかった・・。ごめんね・・・ユチョン。」
僕は黙っていた。
ジュンスは一人で続ける。
「僕、ユチョンに嫌われてるって分かってたんだけど・・・同い年だし、ユチョンが来たとき・・嬉しくて。
ほんとに仲良くなりたかっただけなんだ・・・だから・・」
「違う!!・・・・・・嫌ってなんか・・・ない。ごめん・・ジュンス。謝るのは僕の方だ・・。」
それだけ言うのが今の精一杯。
これ以上言ったら泣いてしまうかもしれないから。
ジュンスが大きく息を吐く音がした。
「良かったぁぁ・・ほんとに。」
その一言で僕も救われた。
ジュンスが大きく身じろぎをしたとおもうと、僕の首にジュンスの唇が当たるか
当たらないかくらいまで身を寄せてくる。
「ちょっとジュンス・・・!」
小さい声で名前を呼んでみても反応がない。
「寝たのか・・・」
まあ、いいか。
腕の中に感じるジュンスの暖かさが心地よくなって僕もすぐに眠りに落ちた。
次の日、目が覚めると腕のなかにジュンスが居たので悲鳴を上げそうになったが、
昨晩のことを思い出してなんとか落ち着きを取り戻す。
「・・・・・・」
ジュンスの顔を見つめる・・・。
その形のよい唇に目が行く。少し口が開いているのが妙に艶っぽい。
ちょっと待って、今なに考えた・・!
なんでジュンスにキスすること考えたんだ・・・!!
雑念を振り払おうと大げさに頭を振っていると、
ジュンスが目を覚ましてしまった。
「ふぁ・・・・ユチョン・・・おはよう・・」
特に驚く様子もなく僕の顔をまじまじと見つめるジュンス。
今は・・・やめて欲しいんだけど。
ふと、ジュンスが笑った。
僕もジュンスの笑顔の理由に思い当たり、慌てて飛び起きる。
僕が顔を真っ赤にしているのでますますツボに入るジュンス。
「ジュンス・・・・・っ!!やっぱ嫌い!!」
「いいじゃん、ユチョン、生理現象でしょ。僕だってなるし。」
言いながらまだゲラゲラと笑っているジュンス。
そんなジュンスを見て、僕も笑ってしまう。
二人でリビングに出て行くと、すでに起きていた3人がホットココアを飲んでいた。
ジェジュンが僕たち二人が一緒なのを見て一瞬びっくりしたようだったが、
すかさず声をかける。
「二人も飲む?」
僕たちは無言で頷く。
ジュンスはソファー、僕は食卓のイスに座って熱いココアをすする。
「昨日は寒かったねぇ、ほんと。俺あまりよく眠れなかった。」
ジェジュンが言う。
「ジュンスは、眠れた??」
ジェジュンがジュンスに話を振った。嫌な予感がした。
「ユチョンと一緒にくっついて寝たからよく眠れた。」
僕は飲んでいたココアを盛大に吹き出した。
チャンミンが慌ててティッシュを渡してくれる。
「ユチョンと一緒に寝たの!?」
ジェジュンがありえない、という顔で僕を見る。
僕はココアを拭いているふりをするしかなかった。
「一緒に・・・って・・」
ジェジュン、は顔がニヤニヤしている。
ジュンスはさすがにそれ以上は言わなかったけど、
僕としては今度はちゃんとジュンスを口止めしようと心に誓った。
だけどまた一緒に寝ることなんてないか・・・とちょっと寂しくなったのは絶対秘密。
ジュンスはチラッと僕の方を見て微笑んだ。
僕もちょっと笑顔を作ると、皆にばれないようにすぐ視線をココアに戻した。
今までこうやってメンバーと過ごすこともあまり楽しいと思わなかった。
でも、これからは楽しいと思えるかも知れない。
ジュンスの温もりで、凍った僕の心は少しずつ溶け出していく。
そしてこの後彼を愛することになるなんて、
そんなこと今は想像もできない。
でも、確かにこのときから僕らは始まったんだ・・・。
fine,







