中学生の頃から、子供が出来たらどんな名前にしようかな?
そんな事ばかり考えていた。
早く、結婚して幸せになりたい。
自分は子供の癖に、愛する奥さんと子供達で海に行き下手なギターで歌なんて歌ってみたい。
本当に、小さな小さな夢だけど。
親の期待を裏切った僕は、親とは会う事も無い見知らぬ土地で家族を持った。
産まれて来た男の子には、中学から考えていた名前をつけた。
「歩夢(とむ)」
夢に向かって一歩ずつで良いから進んで生きて欲しい。
そんな意味を持つ。
二十歳の頃には、親も親戚もいないので寝ずに働いて稼ぎに出ていた。
夜は、調理見習い。
昼はビデオ屋アルバイト。日曜日は引っ越しアルバイト。
1日の小遣いは100円。
もちろん、食事代込み。
トイレで水を飲み、調理の賄いはタッパに半分持って帰る。
奥さんに、こんな料理習ったんだよ。
食べてみてよ。
(*^^*)
酒は飲まず、タバコも吸わず、テレビなんて観る暇なんて無い。
友達とも遊んだ事が無いまま数年。
歩夢の成長だけが楽しみで、1日100円で紙粘土を買い奥さんにブローチを作り。歩夢の写真を入れる写真立てを作るのが趣味になった。
毎日、子供のオムツを替えて風呂に入った。
歩夢が三歳になった時に、奥さんと奥さんの母親が話があると言ってきた。
1日一時間の睡眠で、昼は水しか飲まないでギャンブルもしないで友達とも遊んだ事が無いのは不憫だと言ってきた。
幸せだから気にしないで。
(*^^*)
そう言ったが、10代や20代は遊びたい時にテレビさえ何年も観てないのは変だと言って来た。
結婚してなけりゃ何がしたかったか?
それを聞かれた時に役者を目指したかった。
と、言った。
協力するから何か好きな事をしなさい!
と、言われた。
一万円上げるから浮気でも良いから好きな事しなさい。
それほど、仕事して一時間の仮眠をして水浴びして仕事に向かう生活だった。
養成所に通う金も無い。
奥さんは昼間は喫茶店にパートに出るから自由時間作りなさい。と、言ってきたので楽器を覚えた。
それから、一年で数年分吐き出したからか芸能界から誘いが来た。
これが、芸能界入りとなった。
芸能界よりも家族を大事にしたかっただけ。
( ┰_┰)
歩夢と風呂に入ると体をタオルで擦ってくる。
どうしたん?
「パパのお手手にジージー描いてるから消してるの!パパが怒られない様に頑張る」
この時に、涙が流れた。
悪から幸せを求めた男は、気が緩み悪事に手を染めてしまった。
これが、家族バラバラの原因。
最後には、遊園地で別れようとなった。
「パパは歌作ったり歌ったりして格好いいなあ。歩夢くんもパパみたいになろう!」
いつも、いつも横にいた相棒の言葉。
歩夢、パパの最後の言葉を聞きなさいね。
パパは悪い事したから、歩夢と会えなくなったんよ。
ママを助けてあげるんやぞ!約束しよう!
新しいパパが出来てもキチンと言う事を聞きなさい。
僕が涙ながらに最後に口にした言葉だ。
歩夢はしがみつきながら、
「僕のパパは世界で1人だけ!パパ大好きパパ大好き!良い子にするから一緒にいて!」
号泣しズボンにしがみつく歩夢をふりほどき、涙で前が見えないまま走った。
体が壊れてしまえ!
と、思うほどに。
意識無くなる迄走った。
この時の、歩夢との別れを未だに月に数回夢に見る。
苦しいからと役者を捨ててしまえば、歩夢を裏切るかも知れない。
別れた遊園地が取り壊され始めた。
歩夢は、来年は二十歳。
僕の心の中には五歳の姿で写し出されている。


