コンクリートの剥き出しになった殺風景な部屋である。
焚かれた線香の香りが鼻につく。
兄弟は母の遺体を凝視したまま手を繋ぎ黙って立ち尽くしている。
兄は16歳、由紀は13歳である。
遺品箱には
■ 1冊のノート
■ 聖書
■ ロザリオ
これだけである。
母は、カトリック信者であった。
由紀は遺品箱の中の1冊のノートを手に取る。
ノートには母が好きだったジャン・ニコラ・アルチュール・ランボーの一節が書いてあった。
恐れもそして苦しみも天空高く舞い去った
治世はついにこぬものか
かかる激しき混沌にかって呑まれし事やある
我が身より過ぎ去る風も果て光も失せる
もう一度探しだしたぞ
何を?
「永遠」を
月の満ちし夜再び現れるまた会おう
良いも悪いも同じく
すごいうなりをたてながら汚ない蝿もが寄りたがる
熱き血潮の柔肌よ明日はもうない
時は来たのか終わりの時が
まるで自分の人生の終わりを悟った様にノートに母の字でかかれてあった。
兄に言って由紀は、この遺品を全て自分が受け取る許しを得た。
兄と2人での生活が始まる。
それからというもの、由紀は暇さえあれば、聖書を隅から隅まで事細かく何回も繰り返し読んだ。
そこに、一つの言葉を見つけた。
「あなたの死者は生き、彼らのなきがらは起きる。ちりに伏す者よ、さめて喜びうたえ」
死ぬ事は終わりではない。
由紀は母は死んでいないと心の片隅で、思う様になった。
その言葉を見つけてから、由紀は母の形見のロザリオを首からさげ、どこに行くにも、いつも聖書を形見放さず持って歩いた。
それから2年後の7月15日
残暑が厳しい日だった。
兄は大好きなバイクで出かけ、トラックと衝突し帰らぬ人となってしまった。
即死だったとの事であった。
兄のリュックからは『由紀へ』と書いてあるメッセージカードの付いた綺麗に梱包された箱が入っており、中には腕時計が入っていた。
メッセージには
「由紀お誕生日おめでとう。高校入学のお祝いもしてやれなくてごめんな。せめてものプレゼントだ。」
と書いてあった。
兄はバイトで稼いだ初めてのお給料で由紀への誕生日と入学祝いにと腕時計を買いに行った帰りに事故にあったのであった。
腕時計は文字盤が完全に割れてしまっていて、もう直す事も不可能な位、損傷してしまっていた。
由紀は、その腕時計と兄が日頃からバイクに乗る際にずっと着ていた白龍のスカジャンを遺品として受け取った。
兄は、このスカジャンを着て大好きなバイクに乗るのが好きだった。
そんな兄の姿を見るのが、由紀も好きだった。
しかし、由紀は最愛なる母を亡くし、今、最愛なる兄をも亡くし、独りになってしまった。
それでも聖書の言葉を信じた。
「死ぬ事は終わりではない。」
それからの由紀は変わった。
入学した高校から馬路須加女学園に転校し、毎日喧嘩にあけくれる様になった。
由紀は高い動体視力と超速のスピードを活かし、買った喧嘩でも売った喧嘩でも負ける事はなかった。
黒いシャツにロンタイ、兄の形見の白龍のスカジャン、首からは母の形見のロザリオ。
そして聖書。
いつしか、周囲からは『ブラック』と呼ばれ恐れられる様になっていた。
それから2年の時が経ち、由紀は3年になっていた。
由紀は気付くと馬路須加女学園の最強武闘派集団ラッパッパの四天王に上りつめていた。
最愛なる母を、最愛なる兄を亡くしてから独り、居場所もなかった由紀。
由紀はようやくラッパッパと言う居場所を見つけたのであった。
最上階にある吹奏楽部の窓から景色を眺めている。
窓から射す光でロザリオが輝いている。
みちすけ
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