抗がん剤治療を始めてすぐに引越を決めた。それまでは1年半くらい、横浜でも家賃の高い地区で価格重視の築40年以上の木造アパートに住んでいた。しかし引っ越した直後から、想像以上の建物の揺れ(前の細い道路をバスやトラックが通るたび、隣人が階段を駆け上ったり下りたりするたび)、外の音がかなり聞こえてくるので寝ていてもよく起こされること、夏にはどこからともなくGが入ってきて神出鬼没、その上宗教の勧誘や変な人が直接訪ねてくることとそんな階下の住人を名乗る変質者のような人が出ても管理している不動産屋は鼻で笑う始末。冬は雨風がしのげる程度の極寒、夏は外より暑いという、値段相応の物件で入居直後からうんざりしていた。

 

乳がんの確定前に、余命が決まったら家賃など考えずにいい所に引っ越そうと思っていたが、実際はそれより現実的な治療を始めるにあたり、ゆっくり過ごせる所で払っていける家賃の所を探そうと決めた。特に、人からどう見えるようになるか分からない脱毛が本格的になる前に決めてしまおうと思った。前にもお世話になった友人の親戚の不動産屋に相談に行き、何軒か空き物件を教えて貰った。その時に直感的にここがいいかなと思っていたところに見学に行き、早々に決めてしまった。興味がある方のために公開すると、家賃・管理費で8万円の物件だったが、4月にリノベーションが終わっても7月まで空いていて7万5千円まで下げられていて、不動産屋が交渉してくれて更に7万2千円になった。フリーレント1ヶ月付き。ほぼ同じくらいの大きさで、前に住んでいたアパートは5万1千円だった。毎月の負担の差は大きいが、住み心地は雲泥の差。

 

それから引越業者を決めてお盆明けに引っ越しした。7月26日に最初の抗がん剤、8月1日契約、お盆明けに引越。引越予定当日に台風が3つも接近していた異常事態に引越業者から延期を申し入れられ、しぶしぶ翌日の早朝7時からになるというハプニングがあり、引越予定日の翌日は仕事を入れていたので急遽指名客のみやりに行くことに変更して、朝引越、片づけはひとまず置いておいて仕事に行き、帰ってから最低限生活できる片づけをして生活を始めるという感じで、2回目の抗がん剤投与を挟んで仕事と引越とかなり忙しくしていた。

 

看護師さんも『出来るだけ忙しくしている方がいいんです』と言っていたが、私もその通りだと思う。よくネットの乳がん専門医との相談コーナーでも、不安を何度もぶつけている患者のやりとりを読んだが、そんなの考えすぎでしょうというものが多い。退職後の人が鬱になったり、主婦が心配性なのは、基本的に暇なのが悪いと思う。考える時間や小さな変化に気づきすぎるからだ。勿論病気の初期症状に気づくのは早い方が良いと思うが、過敏になりすぎてしまう。私も求職が上手く進まず不安で不眠になったことがあるし、いつも身体はしんどくても働いている方がいい。

 

ちょっと普通ではないかもしれないが、私は全て独りで全部やって過ごした。その頃になってやっと母に乳がんの事を告げたが、想像通り『すぐに会いに行く』と言ってきたが、とりあえず引越が終わってから、通院の都合で仕事も暇な時期にしてくれと待ったをかけた。