ウィッグを貰ったが、どうもかぶる気もしないし、仕事ではロングヘアを束ねていたので、ウィッグをして束ねるとかおかしくないかというのと、夏の始まりからだったので暑くてかぶっていられないのではないかとか、自転車で坂道を飛ばして下りているときにヅラが吹っ飛んでいく気しかしなかったので、ネット検索して帽子用ウィッグを注文した。完全に抜けてからの事よりも抜け始めの途中からウィッグを被るのかもどうしてよいのか分からなかった。
2週間目の夜、シャワーに入るのが本当に怖かった。出来るだけ後回しにしたが、入らない訳にいかないので、意を決して入った。『ああ、シャンプーするのコワイ』そう思いながら、私のルーティンで下から石鹸で洗って流した瞬間、当然と言えば当然なのだが、すっかり忘れていた。『なんじゃこりゃあ!!!!』そう、見たことない量の陰毛が手にいっぱいついていてギョッとした!ここからかい(笑)その後ちょっと拍子抜けしつつシャンプーしたらまぁまぁ抜けた。だが、陰毛の方がよっぽどたくさん抜けていたので想像と違った。
寝ている間もドラマで見るように枕にごっそりと毛が抜けて落ちているイメージがあるが、実際はまぁまぁ落ちてはいたが、ちょっと多い抜け毛程度だった。翌日からは、サンプルでいただいていた紙製ナイトキャップを被って寝たが、そんなにごっそり抜けている事はなかった。ただし、日中もハラハラと髪が落ち続けるので、首などについた抜け毛がさわさわして気持ち悪かったし、抜けかかった毛を手で触るとハラハラと落ちるので面倒だった。そして連日シャンプーの度にごっそり抜けたが、そんなにすぐに肌がみえることはなく、髪の毛は想像以上にたくさんあるのだと実感した。抗がん剤治療のイメージは全てドラマのシーンのせいだ。
1週間くらいかけて徐々になくなっていき、生え際から少なくなっていき肌が見えてきた。無理に引っ張って抜くと毛根を痛めると書いてあったので、シャンプーである程度手櫛で取れる以上は引っ張らなかった。そして10日から2週間ほどで、ロードオブリングのゴラムのようになった。これが正解で、放っておいても全部完全に抜けない。
指南書には、頭皮は顔と違い皮脂や汗腺が多いので必ず肌に優しいシャンプーを使いましょう、毛が再生してくるまでは育毛剤やマッサージは控えましょう、と書いてあったが、こうなってからは、ハゲのおっさんのようなプライドはなく、わざわざシャンプーを使い分けるのも面倒なので、洗顔で使った泡をそのまま頭まで洗った。
そういえばすっかり忘れていたが、脱毛期はただ髪が抜けるのではなく、毛根がとても痛かった。これは誰も教えてくれなかったので少し辛かった。そして、健康な毛の毛周期が終わりを迎えて抜けるときの毛根は白い根が付いていて、成長期の毛を無理に抜くと黒くねばねばした根が付いているのだが、抗がん剤で攻撃されて抜けた毛は毛根が溶けたようにほぼ何もなかった。突然命の供給を絶たれた感じで気持ち悪かった。それから、私は元々頭皮の脂肪層が薄く固い方だが、頭皮がブヨブヨとしていた。そういう訳でどちらにしても腫物を触るようにしか洗えなかった。