妬まれる事を恐れる気持ちが、他人に対して優しい振舞いをさせる

オランダ・Tilburg(ティルブルフ)UniversityのMarcel Zeelenberg教授らがPsychological Science 11月号に発表した研究で、人は自分の成功を妬まれることを恐れて、周囲の人間に対して優しく振舞うようになる傾向があることが実験的に明らかになりました。


教授らはこれまでの研究から人の羨望の感情には2種類あり、1つは羨望する人のようになりたいという前向きの動機づけとなる良い意味での感情、もう1つは羨望する人の失敗を望んだり足を引っ張り引きずり落とそうとする妬み・嫉妬の悪意に満ちた感情があることを実験的に立証してきました。


今回の研究では、後者の悪意に満ちた妬みの感情を向けられた場合に「妬まれないためには、成功した者は利益を独り占めにせず周囲と分かち合い、より周りに気を使うべし」というような故事・世間知が実際に有効かどうかを立証することを目的として実験を行いました。


実験は参加者の中のある者が、

A.クイズに正解したという正当な理由で5ユーロ得る場合(参加者は良い意味での羨望の対象になり得る事を自分で納得し得る)と、

B.クイズに何ら理由もなく偶然当たって5ユーロ得た場合(参加者は妬みの対象になる恐れを感じる)に、

5ユーロを得た人が5ユーロ得られなかったほかの参加者にどう反応をするかを調べるものでした。


ひとつの実験で5ユーロを得た参加者に対して、他の参加者にアドバイスをするように求めたところ、B群の妬まれる恐れを感じるグループの方が、A群より長時間にわたって他の参加者にアドバイスしました。もうひとつの実験では5ユーロを貰えていない他の参加者が離席するときに、わざとテーブルの上にたくさん置かれた消しゴムの山を床に散乱させるというものでした。この場合もB群のほうが積極的に消しゴム拾いを手伝いました。


この実験結果から教授は、妬まれる事への恐れが、人を援助行動のような社会的な相互作用が良くなるような方向の行動へと仕向けるのであって、単に利益を得て裕福になった満足感が、人を援助行動に仕向けるわけではないことが明らかになったとしています。


医療ジャーナリスト 宇山恵子

Psychological Science 11月号