無人駅で我が子の人形にひたすら祈る母~祈り場創りの思い強める 

 

 ⑴我が子が愛した人形に涙して祈る母

   アクロバット飛行のジェットが展示されている鹿妻の次の駅・陸前小野駅の周

  辺はすっかりがれきに覆われ惨憺たる有様です。この状況を見て胸がふさがる思

  いでしたが、なぜか待合室の中が気になりました。

 

 

   +

 

    1時間以上歩いたし、長期戦に備えての休憩も必要と考えて、

   待合室に入ることが出来れば、少し休憩しようと思いました。

    駅舎中の被害状況も見てみたい気もしました。

 

   駅舎の中にもがれきが入り込んでいましが、大雑把に片付いている様子です。

  誰かが片付けてくれたのでしょうか? 何はともあれ、どうやら待合室中に入る

  ことが出来そうでした。

 

   覗いてみると、女性が、小さな人形をイスの上にのせて涙を浮かべて

  祈っているのです。直感的に、きっとわが子?のものだろうと察しました。

   その祈りには我が子への深い愛情と共にどこか悔いの思いも感じられました。

  それだけに、話しかけるのが躊躇されました。入り口付近に立って見守ると、私

  には気付かず人形に話しかけながらひたすら祈り続けているのでした。その姿に

  胸がいっぱいになり、思わず涙がポロリと落ちました。

   震災を体験してからは、悲しい場面に出会うことが多くなったせいか、涙もろ  

  くなったような気がします。

   しばらく祈りが続きましたが…、祈りをやめて人形を愛おしそうにイスから取

  り上げたのです。そして人形に向かって「これまでMちゃんと遊んでくれてあり

  がとうね」と、ホホ擦りしました。《心からわが子を愛していたのだろうなあ》

  と想うと、切なくて切なくてたまらなくなりました。こんな心境ではますます話

  しかけられなくなりました。

   見つめているている私の存在に、やっと気付いたようです。こちらを向いてこ

  くりと頭を下げました。私も頭を下げながら、ごく自然に「お子さんの人形です

  ね?」と尋ねました。女性は、また、こくりと頭を下げましたので、

  「よかったらお人形さんの写真を撮らせていただけませんか」と許しを得て撮影

  させていただきました。

 

 

   撮影してから「お子さんはここで亡くなったんですね?」と確かめるように訊

  くと、彼女の方からぽつりぽつりと話してくれました。心が通い合ったたように

  感じました。

 

   筆者が金華山で命拾いをしたこと、震災についてぜひ書き遺したいこと、震災

  で亡くなった人々への祈りの場を創りたいと思っていることなどを話すと、心を

  開いて色々話してくれました。――彼女は昼間働いているので、娘さんは幼稚園

  から帰ると、大抵はこの無人駅に遊びに来ていたとのことでした。乗降客にとて

  も可愛がられて、震災当日もここに遊びに来て津波に呑まれたのでしょうと、

  声を詰まらせて話してくれました。

   震災の翌日この待合室の隅で、お人形と共にがれきに囲まれるようにして発見

  されたとのことでした。遺体が待合室の中に留まっていて、「あまり傷ついてい 

  なかったのは、むしろがれきが守ってくれたのでしょう」と、自分自身を納得さ

  せるように、とつとつと話しました。その言葉が私の心に深くの残りました。

  ――彼女も自分の悲しみや苦しみを誰かに聞いてもらいたかったのに違いありま

  せん。《このような悲しみを持つ人たちのためにも祈りの場を創ってあげたい

  という気持ちをさらに強めました。

  「出来るだけ前を向いて生きてくださいね。そうすれば、お子さんがきっと喜ん

  でくれるでしょう」と励ますと、彼女は「頑張って祈りの場を創ってください。

  出来上がったらお祈りに行きます」「あなたにお会いして本当に良かったです」

  と笑顔言ってくれたので、自分も祈りの場創りに励ましをいただいた気分でさら 

  にモチベーションが上がりました。そして自宅までのあと40キロあまりの歩きに

  も元気をもらいました。四国歩き遍路や世界旅でも思いがけない嬉しい出会いが

  あったように、自宅までの歩きにも思わぬ出会いがあるかもしれません。

 

   [みちのく巡礼ホームページ] http://michinoku-junrei. com/