未知子さんへ




はじめまして(ではないのか?)
19歳の僕です。

先日はお手紙ありがとうございました。
あのあと本当にすぐに睡魔におそわれて、翌日の夜に起きました。そして、起きてそのまますぐ支度をして、新幹線に乗りました。行き先は東京です。


新幹線に乗ったのは中学の修学旅行以来です。
こんなに簡単に行けるものなのかと驚いたのですが、そりゃ行こうと思えば簡単に行けるに決まっとるやろがと、驚いた自分にひとりツッコミをかましました。

新幹線の車内はガラガラだったので、好きな席に座りました。売店で買ったアーモンドチョコレートを食べながら、前日の夜のことを思い返してみたら、なんだか僕は滑稽だったなあなんて思ったのです。車窓から見える流れていく夜の街みたいに、僕の気持ちもうつろって、うつろって、とにかくうつろっていくんだなぁって。そして20年後は未知子さんのようなオカ…じゃなくネカマになっているのかなって。ネカマかぁ…って。

そう思って感慨深くなっていたら、後ろに座っている人が僕の座席をトントンと叩いてきて。それで僕は後ろを向いてみたんですけど、そこにはしょっぱくて困ったような顔をしたおじさんがおりまして。


口がしょっぱくて困ってるのかなあって僕は思って、アーモンドチョコレートをみて、あと5粒くらいだったかな?残っているのを確認しました。

おじさんは僕に向かって「イケるんすけど、ダメすか?」と言い放ちました。

はぁ?と僕が聞き返すと、また「イケるんすけど、ダメすか?」って言うんです、しょっぱい顔して。

はぁ?とさらに聞き返してみたら、おじさんは困ったような顔を強めたものだから、僕は途端に怖くなってしまいました。でも、僕はこのアーモンドチョコレートは絶対にあげないぞって、思いました。

僕のアーモンドチョコレート、
確かに2粒ありました。

そこにきゅっと力をこめて「ダメす!」と言い放ちました。おじさんの反応が怖いので、顔は見ずに言い放ちました。僕はそれから甘い5粒のアーモンドチョコレートをカバンにしまって、一目散に逃げました。

〝逃げる”

今の僕にぴったりのことばだなと思いました。
怖かったけれど、同時になんだか嬉しくもありました。僕はあの時、どんな味の顔をしていたかなあ。

はじめての手紙なのに、変な事を書いてしまいました。20年後の自分からの手紙なんて馬鹿げているけれど、でも今の僕より馬鹿げてはいないなぁなんて思うから、だから何も不思議じゃないなぁと思いました。キャッチフレーズはよくわからなかったけれど、とりあえずそれでいいです。やりとりできるの嬉しいです。




ところで、

「ネカマ」ってなんですか?





19歳の僕より