前回から引き続き。前回↓
わたしは思わず『大丈夫?』と聞いてしまいました。
彼女は泣き顔を隠すようにしてわたしを横目で見やり、瞼を閉じてうんうん、とうなづきました。
・・・沈黙。
始めの言葉を驚き!、の感嘆で発してしまったため、うまい自己紹介のタイミングを逃してしまいました。
彼女はまだ下を向いて泣いていた。
うーん。慰めたい。
なんだか手持ち無沙汰のような気分になって宙に浮いてしまった視線を受け付けの人に集中して考えた。
わたしだったらどうかな。よし、話しかけてみよう!
すこし考えて自己紹介をした。
『わたし、ミミ。大腸がんのステージ4よ。ここの病院に来て半年になるの』
わたしは視線を彼女の顔から離して口を開いた。
あまりにも大胆に泣く彼女をなんだか直視してはいけない気がしたからだ。
わたしが自己紹介を済ますと彼女はまた大きく鼻をすすって大粒の涙を流した。
わたし『大丈夫?一人で来たの?』
彼女はハンカチで口を押えてまた、うんうん、とうなづいた。
彼女はちらりとわたしを見て顔を上げると堰を切ったように話はじめた。
『わたし、あなたより遥かに状態はいいかもしれない。だけど今日は本当にフラストレーションがたまってやるせなくて、涙が止まらなくて・・・』
彼女の名前はミシェル。ミシェルは別の病院で3年間も化学療法を続けているとのこと。
しかし結果は出ず、セカンドオピニオンを聴くためにわたしが通う病院に来院した、と。
ミシェル『病院を変えるのも手続きが大変で。ずっと待ってばかりで・・・自分の思うように進まないし、治療はうまくいかないし・・・』
わたしは彼女の話を聴いた。
結果が出ないのは願患者にとって厳しい現実だ。
辛い副作用や毎回の化学療法に耐えているのに、癌細胞になんら変化が起きないとなれば身体だけじゃなくこころ、も折れそうになってしまう。
しかも3年間も効果が出ずにいたなんて。
癌細胞自体は大きくなることもなく小さくなることもなく現状維持だったという。
わたしはちょっと驚いてしまった。
病院によって対応に雲泥の差があるのがアメリカ的なのか。わたしの医師ならば結果が出ないと分かった時点ですぐに対策や選択を提案してくれる。
実は。
我が家のオッ様から聞いたことがあります。
我が家のオッ様は極貧な家庭で育ったため、保険に入ることはおろか、町の病院に行けませんでした。
彼は言いました。
『お金が無かったから、国が提供する安価な病院に行っていたよ。患者は病院を選べないんだ。ひどい病院だったなぁ』
お金の差異で受ける医療手当が違うとなるとそれは万人に対しての医療、と言えなくなります。
しかし、それがいまのアメリカでもあります。
悲しかな、資本主義の闇、アメリカの闇。
日本も格差社会の広がりを見せています。医療業界までも将来、アメリカのようになるのではないか、と考えてしまう。日本には『健康保険』があるから、また状況は違うかな……。
実に明るいおじさまでした。
おじさま、わたし達の会話を聞いていらしたんですね。
おじさま『ハローレディース!心配するな。神様に祈りなさい。俺が言えるのはこれだけだ』
わたし『Awwwwwありがとう!そのとおりですね。元気づけてくれてありがとう!』
おじさま『俺の名前はトニー。TO NY。(おじさまはこれをトゥーニューヨークと言った。ニューヨークへ、という意味。元ニューヨーカーだ。わけあってカリフォルニアに引っ越してきたとのこと)君たちの名前は?』
わたし達はそれぞれ自己紹介をしました。
トニー『俺は全米でも5パーセントしかいない稀有な癌なんだ。だけどこの病院の勧めてくれた新薬のテスターになって癌が半分以上も小さくなったんだ。心配するな。この病院はいい病院だ。医師を信頼して神様に祈り続けなさい』
おじさまの顔は顔面麻痺で動かない状態でした。
だけど精一杯、身振り手振りで話をしてくださった。
『医師を信じて神様を信じて与えられた選択をよく考えて選んで前に進むしかないんだ』
『僕はこの病院で勧められた新薬で体調もすこぶる良くなった。レディースよ、心配するな!自分はRight on truckに居る、と信じなさい』
わたし、
何故なら、Right on truckとはわたしがよく使う言葉。
正しい軌道の上にいる、わたしは自分が選択を下した時、いつも自分に言いきかせるのだ。
そう、後悔を絶対にしないため、に、だ。
わたしはうなづいた。ミシェルもうなづいていた。
それからわたしは名前を呼ばれて、彼女もどちらかに消えて行って会話、は終わってしまった。
また会えればいいな。
今度は電話番号でも交換出来たら、と思う。
しかし、トニーさんとの出会いは不思議だったな。新薬のこと、ちょうど提案されたばかりでしたから、ドキッともしましたよ。
なにかね、一押しされた気持ち、になりました。
新薬を試しなさい、と背中を押された気持ち。
わたし、ステージ4、末期。(身体と心は末期じゃないけど、癌細胞さんだけが末期、なんてね)。
やっぱりここは試してみます!
ジ―ザスのお導きの元、新薬に挑戦します。
まずは身体的なテスト、精神面でのアンケートなどを受けて病院側と新薬開発の医師たちがわたしの身体が対応可能かどうかの判断を下す。
ですから。
今、は、テストをこなし、わたしの身体が新薬に対して適正だという許可が下りるのを待たなくてはいけない。
願患者に限らず、なにかの病にかかったひとはこの『待つ』、という行為を何度も何度も余儀なくされます。
待合室での日常もそうですが、毎回の血液検査、その他諸々の検査、化学療法の結果待ちの検査・・・。
むしろ、闘病生活は『待ち時間』をどう過ごすかが肝ではないか、とまでわたしは思う。
この待っている時間を有意義に優雅にゆったり、となだらかな安定した気持ち、で過ごす、というのがわたしの目指す『待ち時間』、の姿勢です。
そうは言っても未完成で未熟な人間のわたしですから、やはり弱くなったり、ヤキモキして苛立ちを感じることはあります。
『待つ』、という行為がいかに辛抱を要するか、身につまされて感じることが多々あります。
ミシェルの涙を見てわたしも彼女の焦りといら立ちを感じました。
闘病生活は精神面でも様々なチャレンジをわたし達に与えてくれます。
だからこそ、わたし達はこころを平穏にして『待つ』時間、をピースフルにエンジョイせねばならない。
『待つ』時間、はわたし達、個人の手では変えられない。
コントロール出来ないこと、を認めて、神の手にゆだねる。
結果が出る、その時まで、を毎日、笑顔で過ごすため、天におられる父に祈りを捧げる。
こころに平穏をお与えください、わたしが強くなれるよう知恵を授けてください、待つことを余儀なくされた世界の兄弟、姉妹のためにどうか神様、お力をください。
彼らが今日も笑顔で『待つ』ことを耐えられますように。
神様、わたしは今日も祈ります。日本で病と闘う兄弟、姉妹のため、みなさんの痛みが一日も早く癒されますように。みなさんの『待たれている時間』が、良い結果を運びますように…………。
NYから来たトニーさんに会えたこと。
わたしは、不思議な出会いだと思いました。
そして昨日、最終決断を下す話し合いを医師と終え、研究者の方とお会いしました。
わたしは新薬を試すテスターとしての申請をしました。
世界ではまだ1250人にしか試行されてないといいます。
全米、欧州、アジアの限られた地域のみ、とのことです。
日本でこの薬品が試されているかはわかりません。
この薬品の名前を公表してもいいかはまだわからないので伏せておきます。
癌治療において我が身は実験台。
このテスター経験でわたしの癌がちいさくなることはもちろんですが将来、この薬の効果が証明されてほかの癌患者の方がひとりでも多く助かりますように・・・!!!
わたし、
やるっきゃナイ(今日もかぐわしい昭和臭をあなたへ)
みなさん、わたしの日常に寄り添い、愛の言葉をたくさん教えてくれて、ありがとう。