中学の仲の良かった同級生、
ちょっとおませな彼女が言う。
男の人の背広姿、確か後ろ姿が好きだと、
彼女は父親が居なかった。
死別か、離別か忘れたが、
そのせいかなって思っていたが、
家の場合、父親の仕事着といえば作業着だったから、
彼女の気持ちは実感としてわからなかった。
私達は、
父親の仕事先の社宅に住んでいた。
小さな一軒家であったが、父親は朝晩自ら掃除機をかける几帳面で清潔好きな人だった。
私が嫁いだ後、
父親が亡くなり、家の中は不用品がたまり冷蔵庫の中にも賞味期限切れの物がたまりだした。
それまで家の中がきちんとしているのが当たり前だと思っていた私だったが、
それは父親の性格と努力の賜物だっのだ。
その一軒家の隣には仕事先の倉庫と駐車場があり、
父親は毎朝早くから、誰に言われるわけでもなく、掃き掃除をして仕事仲間の出勤を迎えていた。
父親は作業着をいつもきちんと着ていた。
小学校6年生で転校する前の下校時にそんな父親を見かけた私は、なせか父親を避けて通り過ぎた。
父親が私を見止めたのに気づきながら…
作業着姿の父親が恥ずかしかったのである。
私が二十歳で夫と結婚する事になった時、父親は喜んだ。
夫の職業が作業着を着る仕事ではないからであった。
いつか何気に、
夫の実家の家業を、後には手伝いたいと言っていた夫の軽口を父親に伝えると、
父親は思いの外怒り出して、
それなら嫁にやらないと言い出した。
結婚式の朝、
白無垢姿の私は
やはり父親に素直にありがとうって言うことが出来なかった。
それから3年後には父親は居なくなってしまうのに、
いつも言うべき言葉をちゃんと言えない私であった。
その後の私は、
夫の普段の制服姿より、
訓練や、非常時に着る作業着のような姿の方が好きだった。
それはなぜだろうか…