『ここをどうしようか迷いよってね』 | 朔太郎のエッセイだったり短編

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「今さらブログのようなものを始めたのはいいんだけどね」
と言って、コーヒーをひとくち飲んだのは良いが
熱くて噴いた。


   松山空港を出ると一気に身体中にまとわりつくような生温い嫌な空気が襲ってきた。雨は間断なく降り注ぎ、空気はサウナ室のように大量の湿気を含んでいた。
   僕は従兄弟が迎えに来るのを待っている間、マールボロのたばこに火をつけ辺りを見回した。前回来たときと何も変わっていないようだった。タクシーやレンタカーの送迎車が列を成し、土地特有の匂いがし、そこかしこから伊予の方言が聞こえてきた。目隠しをしててもわかる。ここは紛れもなく四国であり、僕の生まれた土地だった。

「ここをどうしようか迷いよってね」と彼は言った。インテリアに凝りだしRoomClipを始めた従兄弟だ。前回来たときと比べキッチンにはレンガの壁紙を貼り、サニタリーにはウッド•ブラインド、リビングのテレビ•ボードにブライ•ワックスを施し、その後ろの壁には“すのこ”を掛け、そこにはインテリア•カタログやリメイク缶が置かれていた。
「そうやね」と僕は言った。「カーテンを何とかして、クローゼットは布で隠すといいよ。うん。それで、ソファとローテーブルもテレビ•ボードに合わせるといいかもしれない。あとは」
   そこまで言って、これじゃ全部じゃないかと僕は思った。アドバイスというより、自分の好みを押し付けているみたいだ。
「あとは、布だね、布」
   布さえあればインテリアは何とでもなるのだ。

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