『ええっとですね。それは』 | 朔太郎のエッセイだったり短編

朔太郎のエッセイだったり短編

「今さらブログのようなものを始めたのはいいんだけどね」
と言って、コーヒーをひとくち飲んだのは良いが
熱くて噴いた。


「どうも分からないんだけどな」と僕は彼(猫)に対して言った。「何か太さによって咬む咬まないという区分けがあるのかい?」
「ええっと」と彼は言い、前足をアゴの下に添え少し考える素振りを見せた。

   朔太郎はコードもしくは紙やゴムなどビニールなどの紐がかなり好きで(これは多くの猫がそうなのだろうけど)、目の前にそれらがあると、必ずズラリと揃った上下の歯で、ガシガシと咬む。ひたすら咬む。ゴムだかビニールの紐はまあいいのだけど、電気コードに目をつけられるとこれは本当にひとたまりもない。これまでにホームシアターのスピーカーのコードから始まり、iPhoneとmacのケーブル、イヤホンまたはヘッドホンのコード、PS3とWii Uのコントローラーのコード、それらをそれぞれ複数回やられている。最初はゆっくりと何日かに分けて切断しており、中々気付くのが遅れたりしていたのだけど、近頃は僕の一瞬の隙をついて(リビングからキッチンへちょっと物を取りに行く程度の時間)、ひと咬みで切断するありさまである。“手際が良くなっている”のだ。もうここまで行くと芸術なのかもしれない(もちろん、腹は立つし褒めてはない)。
   しかしコードというコードが全部が全部好きというわけでもないようだ。そこには何か規則性というものがあるのだろうか。

「後学のために、ひとつ君の好みをお聞かせ願えればと思うんだけど」と僕は考え込んでいる彼の答えを待たずに訊いた。
「ええっとですね……」、彼は今度は両前足を胸のあたりで組み、首を少しばかり斜めに傾け、さらに考え込む仕草をした。「ううんっと」
   ちょっとこれはかかりそうだなと思った。彼がこの仕草に入ったときはいささか時間がかかる。僕はそれ以上畳み掛けるのは止め、時間を潰すために野田琺瑯の白いヤカンに水を入れ、ガステーブルの右側でお湯を400ccほど沸かした。そして沸いたところで ACME のマグカップに濃いブラックのコーヒーを注ぎ、チョコレートクッキーと一緒にそれを飲んだ。少し酸味が強い気がしたが、チョコレートの甘さで苦みは絶妙に口の中で中和されていった。それはとてもくたくたに疲れた日に、とてもくたくたに疲れた身体を42℃くらいの熱いお湯にゆっくりと浸けてゆく気持ちに少しばかり似ていた。じわじわと身体中の血液が温められていくように、じわじわと口の中で甘さと旨味が広がっていくのだ。

「あ!」と彼は唐突に大きな声を出した。
「どうしたの?」
「今日まだごはん食べてません!」
「……あ、そう」

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「ところで、何で僕の方を見てるんですか?」