『何か妙案はないのかい?』 | 朔太郎のエッセイだったり短編

朔太郎のエッセイだったり短編

「今さらブログのようなものを始めたのはいいんだけどね」
と言って、コーヒーをひとくち飲んだのは良いが
熱くて噴いた。


「仕事で帰りが遅くなりそうなときは、私の夕飯をどうするかの案は考えとくべきね」と彼女は玄関のドアを開けた僕を見上げながら言った。そのおかげで、ただいまと言いそびれてしまった。
「ごめんね」と僕は素直に謝った。「こんなに遅くなるつもりはなかったんだ」
「ふん。犯罪者の常套句ね」
   ほんとに申し訳ない、と僕はもう一度丁寧に謝った。仕事柄謝ることには慣れている。慣れてはいるが、これだと職場でも自宅でもお詫びばかりしているなあとふと思い、少しばかり人生について思い悩んだ。

   食事も終わりひと段落ついた後に「じゃあさ」と僕は言った。「こんなときの為の案って何かあるかな。僕は正直すぐに思いつかないから、何か妙案があればご教授願いたいんだけど」
「ううん、そうね」と彼女はこちらをじっと見つめ、口もとに少しばかりの笑みを浮かべながら「まあ、そんなことは自分で考えなさい。私の考えることではないわ」と言った。そして前脚を舐め、その脚で3回ほど顔を洗い、そのままくるっとターンして何処かに行ってしまった。彼女が居なくなると、僕は体育館の端っこにぽつんと置いてある、片付け忘れたバスケットボールのような気持ちになった。

「ご飯をお皿いっぱい用意してから出掛けてください!」と彼が言った。いつの間にか僕のヒザの上でぐるぐるとノドを鳴らしている。「ああでもダメです。それだと最初に全部食べちゃいますから……やっぱり非常用に何処かに隠しておいてください!   ……ああ、ダメです。それだと見つけられないから……じゃあ、お皿を大きいお皿にしてください!   ああ、それだと最初と同じに……」

   僕は、ひとりでひたすら喋っている彼を見つめながら右手で耳の後ろを掻いてやり、左手で温くなったコーヒーをひとくちすすった。

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「ああ、何かお腹いっぱいになる方法はないものか!」
 

   話が変わってる。