2016年11月のアメリカの大統領選挙でも、大半のマスコミの予想を覆してトランプ大統領誕生という結果となったのを覚えていますか。
今は、正反対のバイデン氏が大統領となり、その行く末を世界中が見守っています。

 トランプ候補の躍進の理由として、自身の「強いアメリカ」の演出や美人過ぎる娘イヴァンカのイメージ戦略、不満を抱いていた非エリートの層の熱狂が頭に思い浮かぶであろう。

 理由の1つとして、行き過ぎたポリティカル・コレクトネスが指摘されています。
ポリティカル・コレクトネスとは、「政治的公正さ」で、「性・民族・宗教などの違いによる差別や偏見、またそれに基づく社会制度、言語表現は是正すべき」とする考え方のことです。
 初の黒人大統領となったオバマ氏のリベラルな政策は、その「公正さ」を推進するものでした。
LGBT、性的少数派の認知、理解が進み、同性での結婚を認める州が増えるなどの変化が起こりました。
 ただ、その徹底のあまり、クリスマスの時期、公共の建築物内では、「Xmas」の掲示が禁止され、ニューヨークでは“Merry Xmas”という挨拶が“Happy Holiday”に変わるなど、「公正さ」の追求が行き過ぎているとの指摘がありました。

 

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 そして、そのような行き過ぎたポリティカル・コレクトネスをあえて無視する発言を繰り返して物議を醸したのが、トランプ候補です。ところが、その発言は、キリスト教を信仰し、伝統的な価値観を持つ人々ばかりではなく、「公正さ」の追求に嫌気を感じ始めていた人々からも喝采を受け、選挙結果に大きく影響したというのです。
 「アメリカ・ファースト(自国第一主義)」世界からの孤立がまかり通ったことは、まるで、第一次世界大戦に敗れ、巨額の賠償金を課せられ、札束が紙きれとなるインフレに苦しむドイツ国民が閉塞した不況、現状を打破する強い指導者を求めたのを彷彿させる。
 が、現実は「分断」があらわになり、まだその傷跡は深い。

 このような現実は何を意味しているのでしょうか。
 差別や偏見をなくそうとすることは、理想ではある。

 「アイコンシャスバイアス(無意識の思いこみ)」自分では気がつかないまま抱いている偏った見方や考え方のことで、すべての人が持っているもので悪いことではありません。

最近の若者はマナーを知らない。…年配の人はパソコンやSNSの使い方に不慣れだ。…女性は気配りが細やかだから、秘書やアシスタントに向いている。…ラテン系は時間にルーズだ。…

 「暗示にかかりやすい人には、マーケティング戦略が有効」と聞いたことがある。「決めつけが強い、ポリシーがある人に、こらえて、点・線・面で誘導し、こちらの陣地に引き込む。」「『皆さん』という言葉や人だかりに弱い。小さいものから興味を惹け。3つ選択肢を提示してそこから選ばせろ」etc.

 長い民主主義や人道主義、国際的な協調主義など、歴史の中で、神より授与された絶対王権から、希求してきた「理想」を実現することに、現実との相克に人々が疲れてしまった。
 紛争が続くシリアの難民流入問題。2016年初めから各国で様々な論議を引き起こしました。寛容になるか、排斥すべきか。そして、ヨーロッパ全体で反移民・反難民が巻き起こった。
 大学時代、ヨーロッパは、地続きなので、わりと難民やアラブ系には、歴史的な背景からしても寛容だと教わった。ドイツの前々大統領、メルケル首相の前の人ね、クリスティン・ウルフ氏の主張、「多様性の中の統合」、「イスラムもドイツの一部」、対話重視が、イスラム教への偏見は強く、かき消されつつあったが、メルケルのもと条件付きで努力がされた。
 2016年6月には、大方の予想に反して英国がEUから離脱したのも、理想を実現するのに疲れてしまったのでしょう。「明日のパン」が欲しい人が移民が嫌いなのではない。人やモノの移動が自由でなくなり、貿易にも関税がかかり、工場が撤退したら、自分の首をしめるのだから。
 奈良時代から、1300年の歴史がある両国の関係で、わが国で強まる韓国や中国に対する嫌悪感も、理想疲れと無関係ではない。

 経済を中心としたグローバリズム(地球主義)の流れの中、歪みが顕わになり、EUなど推進母体であった欧米諸国の中から、人やモノの自由な移動、ボーダーレス化に対し、異議申し立てが起きた。イギリスだけでなく、ドイツ、イタリア、フランス…、と自国中心主義を叫ぶ右派の台頭が目立ってきている。
皮肉なことに、自分さえよければいい。「世界の警察」だったアメリカの変化によって、世界の秩序は揺さぶられ、ロシアや中国が盛んに対外進出を図ろうとしていることへの懸念が広がっています。
 そして、再び、世界は警戒し始めた。新型コロナウィルス感染拡大と共に。大事なものが次々と崩れ去っていく世界、社会に。
 災害をニュースで目にするたび、1995年1月の阪神大震災、2011年3月11日に東北大震災、2016年4月に熊本地震。わが国が世界有数の地震国であることを突きつけられました。地震はすべてを破壊する忌むべきものであるが、火山が多いことで同時に温泉という恵みも与えてくれる。

 理想を実現していくには、様々な試行錯誤が必要。ときには失敗したり、過度になったりすることもあります。
 しかし、だからと言って、その「理想」を手放してしまうなら、元も子もありません。

 

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