第十三章 先に生まれた者

 

小学四年生の時は、担任の先生が二回も代わった。つまりは、一年間に三人の先生から学んだのだ。なんだか、三人とも責任感がなさそうだった。

 こんな事があった。二学期に入ってすぐのことだ。ハナクソとほかの二人が、学校が終わって家に帰ってから、神社で遊んでいた。なにか燃やして遊んでいた。そうしたら炎が広がって、その神社辺りは結構煙でいっぱいになったらしい。誰かが消防署に電話して、火は無事に消えた。

翌日、その二学期の時の担任の先生はだいぶ取り乱していた。そして、教室の一番前にハナクソとほかの二人を引っ張り出すと、何か「キイキイ」と言って、かなり怒っていた。この先生や校長らが、消防署の人からだいぶ叱られたんだろうなと思った。

先生は、この三人にビンタした。こんなに、先生という人間が取り乱すなんて、情けない。先生失格だと思った。別に、ビンタをしたから情けないんじゃない。先生は、この人たちのために愛情のこもったビンタをして叱ったんじゃなくて、ただただ、自分のプライドを傷つけられた腹いせに、怒りに任せてビンタをしたんだと僕は感じ取っていた。だからこの先生に対して情けないと思った。この先生については、僕らのクラスの中でも、「恐い先生が戻ってくる」といううわさが流れていた。多分僕だけが、心の中で「バンザイ」をしていた。これでいじめが、全部じゃなくても大分減ると思って、「早く先生来ないかなぁ」と期待していた。でも、どうしようもなく取り乱しているあの先生を見たら、残念な気持ちになった。

そんな怒り狂ったビンタをされても、ハナクソだけは泣かなかった。他の二人は「ウワンウワン」と泣いていた。このハナクソは、僕には悪魔の子に見えた。この子だけは、大人になっても変わる事はないと思った。

 それから、こんな事もあった。二学期の終業式が終わった後の個人面談の時だったと思うけど、実は母さんは、僕に内緒で、いじめられているという事をこの先生に相談してくれていた。その時、先生は衝撃的な言葉を発した。

「光男君がこの学校に転校して来る前には、○○君が一番いじめられていたんですよ」。僕は、二つの事でがっかりした。

 一つ目。実は僕は、先生が言ったその人にも何回かいじめられた事があった。だから、「自分もいじめられてたのに、よくいじめる気になれたよ」と思ってがっかりした。

 二つ目。(こっちの方が、がっかりした。)先生は、僕がいじめられていたという事を知っていたということだ。「先生、知ってるなら止めてよ!」と泣きながら言いたかった。一番いじめられてるんだったら、一番に僕の事を考えて欲しかった。たとえば、僕だけ保健室で一人静かに勉強させてくれるとか。

 何だか《先生》って、漢字を見ると《先に生まれた者》みたいに思えるけど、本当にそれだけしかないなぁと思った。ただ単に先に生まれて人生経験を学校の生徒よりたくさん積んでるけど、それだけだと思った。

 いや、もしかしたら十才の僕よりこの先生は経験の深さみたいなものは、深くないんじゃないかと思った。だって、だからこそ、火遊び事件があった時に、あんなにまで取り乱して、《自分は先生だ》っていうことをすっかり忘れているみたいな行動をとったんだと思った。

 

 

十四歳の時の思い

 ずっと後になって知ったことだけど、一学期の先生と三学期の先生は、二人共臨時の教職員だった。

しかも二学期にいた先生は、なんと、一学期には育休という理由で、三学期には産休という理由で、一学期と三学期の二つの学期もいなかったのだ。まあ、プライベートにはあえて口を挟みはしないけど、

「一学期と三学期のブランクはこの先生、埋める事が出来ていたのか?」

「ちゃんと四年三組の事を把握出来ていたのか?」

と思う。

しかもこの先生、あの頃わたしが一番いじめられていたと知っていたんだから、正規の担任らしい行動をとるべきだった。(臨時の教職員には担任らしい行動を期待してないから。)

いじめをしていた人にいくら言っても聞かなかったなら、校長や、彼ら・彼女らの親へも連絡し、厳重に処罰するべきだ。

こういう風に大人全体でネットワークを構築して、そのネットワークを形成した世界の中においては、担任も、校長も、教頭も、そのクラスの担任でない教師たちも、学校に通わせている生徒のいる全ての親たちも、常に目を光らせるべきだ。

 全く以って、この四年三組の時の三人の先生たちは、ただ単に先に生まれて、ごくごく一般的な生徒よりかは、人生経験を多く積んでいるというだけで、それらの経験を教師という仕事に何も生かしていない。何の意味もない。

ただ、先に生まれたというだけだ。