第十一章 漢の誇りとは

 

休み時間にパンツを下ろされるという事も、よくあった。ズボンだけじゃあない。パンツも下ろされた。

5~6人ぐらいの奴らに手と足をガッチリと持たれ、いくら僕が暴れて逃げようとしても、逃げられない。そうしておいて、そいつらはまずズボンを下ろす。次はパンツだ。(いきなり足を引っ掛けられ、僕がつまづいて倒れかけた時にズボンを下ろされるという事もあった。)そしてパンツを下ろされる。ズボンとパンツは、奴らに奪われる。

大抵、こういう事をするのは、モリやハナクソや、シゲとその仲間らだ。

ズボンとパンツを奪われた僕は当然、それらを取り返そうとして教室中を走って彼らを追いかけ回す。その間中、アソコとお尻はもちろん丸出しだ。さすがに奴らも、教室の外には出なかった。先生に見つかるとやばいからだ。

僕は自分のズボンとパンツを取り返そうと、必死に走り回る。机の上にも乗ったり降りたりと、お構いなしだ。

「返せ!パンツとズボンを返せよ」そう叫びながら、休み時間中追いかけ回す。

 奴らはうまいこと仲間同士で僕のズボンとパンツをパスし合っていて、なかなか取り返せない。

その間もちろん、みんなが見ている。男子も女子も、みんな見ている。数少ない僕の友達の方はと言うと、何もしないでただ見ているだけだ。それがルール。僕もその少数の友達に助けを求めない。それがルール。

 女子どもは僕の方を見て、僕に叫ぶ。

最初に声を発するのは、ミカヨだ。

「イヤーン」

「スケベ!」

「ハズカシー」

「キタネー」

「クサイ!」

もう一度言おう。これらの言葉は、女子どもが僕に言った言葉なのだ。しかもニンマリ笑いながら。

その女子どもの言葉とは裏腹に、女子どもは、とっても、とっても、喜んでいる。僕のアソコを見て、同じ年齢の男の子のアソコを見ることができて、とても、とても、喜んでいる。女子どもの顔、顔、顔。どれを見てもうれしそうに笑って、目をしっかりと見開いている。そう、まさに、さっきの僕への叫びは、《狂喜》の叫びだったのだ。

女子どもは、そんなに男の子の小さな《モノ》が好きなのか………。狂っている。

 先生(女の先生だった。)が教室に入ってくると、モリやハナクソや、シゲとその仲間らは、ズボンとパンツを慌てて僕の方へ放り投げる。そして僕は、教室の後ろの隅の方で、コソコソと、自分が悪くないのに自分が悪いみたいに恥ずかしそうにコソコソと、パンツとズボンをはく。

 こんな事はしょっちゅうあったけど、特に金曜日はゴールデンな日だ。金曜日は、必ずと言っていい程ズボンとパンツを下ろされて、そのゲームが始まった。明日(土曜日のこと)は半日で終わりだし、日曜日は学校が休みだ。だから金曜日の彼らの気分は、最高だったんだと思う。みんな狂人だ。狂ってる。

 

 

十四歳の時の思い

当たり前のことだけど、わたしは人間だし、男だ。プライドもある。恥ずかしいという感情も持っている。小学生のこの頃も、もちろん持っていた。

「何で僕だけこんなにいじめられるんだろう?」このころ、そんな疑問はもう通り越していたのかもしれない。

「憎しみ」

「執念」

「人間不信」

これら3つが調和して、わたしに恥をかかせた奴、わたしをあざ笑った奴、わたしをののしった奴、そいつらに殺意が芽生え始めていた。見てみぬふりをしてなんにもしなかった奴には、殺意を抱くことはないが、大人になってから分からせてやりたい。

 こんな屈辱、味わったことがなかった。もちろん、当時十歳の少年のわたしがそんなこと言えるほどの経験はしていなかったけど、それでもこれ以上の屈辱は、これからのわたしの人生においても恐らくは味わわないだろう。人としての誇りよりも一人の漢としての誇りを、深く、深く、傷つけられた。

 わたしは深く、深く、考えてみる。やっぱり、《殺意》という単純なものは持っていないような気がする。

 いくつか存在しているパラレルワールドの一つに入っていくように、いつの間にか僕は妄想を始めていた。………………

…………………卒業式の日。生徒や先生、偉そうな大人たちが、みんな体育館に集まっている。

校長とかが話をする時登ったりするその壇上に、わたしをいじめていた連中が、次々と校長にマイクで呼ばれて登って行って整列する。

「オレ達、何で呼ばれたんだ?」

「なにか賞状でも、もらえるのかしら?」

壇上の彼ら、彼女らは、お互いに質問し合っている。会場もざわついている。

その、名前を読み上げている校長の横には、筋肉質の男たちが数人いて、校長に何かを指示しているようだ。

次に校長が発した言葉が、卒業式という華々しい舞台を震撼させた。

「一斉に、自分の手でズボンとパンツを下ろして、ここにいる全ての人に見せろ

校長は、指示通りに動いただけだ。例の筋肉質の男たちが、校長という拡声器を使って選ばれた生徒たちに命令をしただけなのだ。

こんな命令をこの連中が聞き入れる訳がない。彼ら筋肉質の男たちは、無理矢理に着ている物、はいている物をすべて引き裂く。彼ら、彼女らは激しく抵抗している。けれどもそんな抵抗は無駄だ。やがて彼ら、彼女らは《スッポンポン》の《まるはだか》になった。

壇上の、女子生徒らはもちろん、ほとんどの男子生徒らも、《ワンワン》と激しく泣いている。それを楽しそうに最前列で見ているわたし。

「あーあ、あの女の子、おしっこ漏らしちゃった。。。。。」………………

…………………僕は、違う場所に、違う時間に、瞬間移動していた。

それは成人式の日。とあるホールでみんなワイワイガヤガヤ思い出話に花を咲かせている。

突然、筋肉質の男たち十数人が入ってくる。誰も止める人はいない。ステージに次々と、定められた女らと定められた男らが、その筋肉質の男たちに担ぎ上げられる。

太鼓の音が鳴り響く。

「ドンドコドンドン、ドンドコドンドン、ドンドコドンドンドン、ドン!」

筋肉質の男たちに、容赦なく全裸にされる。しかも立ったままだ。

もう誰も抵抗しない。これら特定の女らと男らは、自分自身の運命を既に知っていたのだ。

そんな中、わたしは紳士たちに最前列にエスコートされる。

「キャー!」

「ヒー!」

「モットヤレ!」

「ヤメテー」

いろいろな叫びがホールの中で飛び交う。わたしは興奮している。息が荒い。しかし、その感情を抑えるかのように、わたしの唇は、綺麗な三日月形をして微笑んでいる。

市長はどうなのか。彼も、面白い見せ物だと、喜んでいる。

例えようのない満足感が、ここにはある。

毎年、この特定の女らと特定の男らが成人式にイベントとして全裸にされることが定まっている。わたしはもちろん、《主催者》として、毎年来る。その女ら、男らも、いわば貴重な《来賓》だ。

一瞬の死よりも辛い心の苦痛を、その特定の女ら、特定の男らは、毎年感じることだろう。………………

…………………夢から目が覚める。妄想が解ける。先生が授業をしている。今は社会科の授業中だ。そう、僕は確かに妄想のパラレルワールドに存在していた。わたしは、この能力を発揮し始めたのがいつからか分からない。

 妄想の中は素敵な世界だ。

こんな風に感じる僕は、気が狂っているのか。………………

…………………神よ、訊いてみたいことがあります。