第二章 いやな予感
転校して来て三日目、僕は昨日の悔しい思いを胸に抱いていた。けれども、悔しい思いがこれだけで終わるはずはなかった。
その日、全部の授業が終わって、後は帰るだけとなった。僕は玄関に着いて、自分の下足箱から自分の靴を取り出そうとした。
いつもと感じが違う。靴がない。
もう一度確認する。「えっと、《剣光男》。確かに僕の場所だな」
「………ない」
しばらく呆然とする。
「朝、入れる場所を間違えたのかな。いや確かに自分の場所に入れたはずなのに………」
「ほかの人の場所を探してみよう」
僕は、隣の列を探したり違うクラスの所を探したりした。
「あれ?おかしいなぁ。何で無いんだろう」
その時、ふとまた昨日の嫌な事が頭の中をよぎる。
「もしかして、隠された?それとも捨てられた?」
「そうだ!そうに違いない」
「ちきしょう。またか………」
僕はあきらめてハダシのまま小走りに家に帰った。
上履きのまま家に帰ろうかとも思ったけど、そんな事をしてそれを誰かに見られたら、またそれがみんなに言われるたねになってしまう。そう思ったから僕は、上履きは脱いで置いて、ハダシで帰る方法を選んだのだ。それに、空は晴れていたからそうしたのだ。
走りながら思った。
「靴も履かないで帰るなんて恥ずかしい」
「ちきしょう、絶対僕のクラスの誰かだ」
悔しい思いはしたけど、仕返しする勇気は僕にはない。
そんなことを思いながら走っていたら、足の裏がアスファルトにこすれてだんだん痛くなってきた。靴下を履いていても痛かった。
家に着いて母さんに言われた。
「お帰り。あら、靴は?何で靴も履かないで帰ってきたの?」
僕は答える。
「うん、なんか、隠されたか捨てられたみたい」
母さんは言う。
「先生に電話するわ」
「あ、もしもし、青田小学校ですか?四年三組の剣光男ですが、担任の○○先生お願いします」
「もしもし、○○先生ですか?光男の母ですが、ウチの子、靴を隠されたか捨てられたみたいなんです………」
「そうですか。はい、はい。分かりました。どうもすみません」ガチャ
僕は母さんに聞く。
「先生何て言ってたの?」
母さんは答える。
「先生も探してみるって。でも一応用意しておいて下さいって言ってたから、これから買いに行って来るわ」
母さんは近くのスーパーで、2回目の新しい学校指定靴を買ってくれた。今度もまた、名前をしっかりと書いた。《剣光男》と。
名前を書きながら、予感した。「入ったな」と。
十四歳の時の思い
この「入ったな」とはいったい何だろうか。
その、いじめられる道に入ったということである。そして、、「いじめられる側のグループに入ったな」という意味である。
「《田舎からの転校生》というだけでこんなにも差別されるのか。僕も同じ人間だけど、もう今からは違うんだ。ただの獲物なんだ。もう後戻りは出来やしない」。いやな予感は徐々に確信へと変わっていったのだった。