夢をデザインする
-商店街の一角。八百屋と喫茶店に挟まれた3坪ほどの店舗が彼女の職場だ
「シャッターがうまく上がらないんですよ」
「お隣が八百屋さんだから(雰囲気が)明るくていいでしょ?」
-ニッコリと笑い店の奥にある椅子に腰掛け外を眺める
庄田芳子(ショウダ ヨシ子) (Age:79)
「はい。いらっしゃい。どうしましょう」
『昨日、あ、今朝か。隣星に行く途中に移動船が壊れる夢見ちゃって』
「うんうん」
『今日の夜にちょうど乗る予定だから不安で』
「それはちょっと嫌よね。じゃあそこに横になってもらって・・・」
「このマスクをすると眠るので、そこから開始しますね。で、今回はとりあえずそんなに複雑なことはしないで、移動船が何も起こらずに隣星に向かうようにだけしますので、時間でいうと大体40分ぐらいで終わるけど、それで大丈夫かな?」
『はい。お願いします』
-来店したのは20代の女性。昨日見た夢をアレンジしてほしいとの要望だ。庄田から渡されたマスクをすると間も無く眠りに落ちる。
庄田は女性の額に左手をそっと乗せ、女性に渡したものと同じマスクをすると、右手で彼女の左手を握り、自らも眠りに落ちた。
30分後。庄田が目を覚まし女性から離れ書類へ記入を始める。
今回の報告をするための書類だ。
(小声で)
「一応、船(移動船)に乗って、そこから隣星に着くところまでを安全に終えるようにアレンジして、まだ少し眠っていそうなので、一旦夢を終えて私は出てきた感じですね」
-程なくして女性が目を覚ました。
「どうでした?」
『ありがとうございます。あのー、無事に隣星に着きました。フフフ』
「うん。よかったです。えーっと、今回はとりあえずさっき説明した通り、そんなにアレンジ加えないで、不安に思ったところだけを変えるだけにしておきましたので、今日この後の睡眠にも影響はないと思います。
ここにね、報告書っていうので書いておきましたので、もし今夜寝てみて何か変だなとかおかしいわって思ったらココまで連絡ください」
『ありがとうございました。無事に行けそうでよかったです!』
-女性は満足した顔で料金を支払い店を後にした。
-あんまりアレンジを加えないのであれば難しいことではない?
「そうですねぇ。結局は、元の夢を全面的に変えるのは出来ないことだから、部分的にっていうのはいつもそうなんだけれでも、例えば今みたいに感覚的には10%程度ぐらいを変えるならそこまで難があるってわけじゃないですねぇ。」
-彼女の仕事は、夢をアレンジする、元見た夢の部分的な変更を行う夢屋だ。近年夢屋市場の成長が著しいが、彼女はこの世界の先駆けとなる存在だ。
一昔前までは霊的なものや宗教的なものと感じと勘違いされることも少なくなかったが、技術の進歩と発展により仕事として確立されてきた。
-彼女がこの仕事を始めたきっかけがある。
「わたしね家がすごく貧しくて。本当に、それこそ夢も希望もあったもんじゃないっていう生活だったのよ。本当に貧しいから学校でもらう教科書が漫画とか小説の代わりで。で、それも学年の初めとかに読み終えちゃうじゃない?そうなるともう本当にやることがないのよ。外で遊ぶにしてもみんなホバーシューズとか持ってるのに、私はスニーカーだから仲間に入れてもらえないし。
だから基本的には寝る以外やることもなくて。
悔しくて、悔しくて。せめて夢ぐらいは自分の思い通りに、好きなことをやらせてよ!って思いながら寝るの。そうすると夢の中ではお金持ちで豪邸に住んでいる生活をしてるわけ(笑)それが楽しくてねぇ。
ほぼ毎日やってるうちに好きにコントロールできるようになってきたから、両親にもやってあげたわけ。両親が朝起きて喜んでてね。それ見て、あ、私これを仕事にしたいって思ったの。だって、今まで暗い顔して起きて、暗い顔して寝る両親しか見たことないんだもの。あんな笑顔の両親が見られるこの技術を仕事にできたら、こんな素敵なことないでしょ?だからこれを仕事にしようって。そう思ったのよ」
「現実を変えることはできないけど、夢は変えられる」
「夢は自分だけの秘密の楽園」
-庄田はそういうと、また次のお客を待つため、店の奥にある椅子に腰掛け、じっと外を眺めた。
※この物語はフィクションです。登場人物等はすべて架空の存在で、現実とは一切関係ありません。