808.エル・スール 12月25日(木) ビデオヴィクトル・エリセ監督の第二作。内戦後のスペイン北部を舞台に、内戦の傷跡を抱える父の孤独とそれを知る娘の話。父と娘というより、娘から観た父、娘が父を知るという言い方が正しいか。元々スペイン南部(エル・スールとは南の意)での後半があったらしいが、予算不足で製作中止に。そのためややぶつ切り的に終わる。主に前半と後半に分けられて、前半は9歳くらいの娘が、不思議な力を持つ静かな父を当然として受け止め、ただ尊敬し親しむような内容。後半は15歳くらいになった娘が、父の過去や孤独について、9歳頃の記憶を連動させて考え、父親を一人の人間として観るようになるような話。印象的なのは陰影の使い方。光の当て方が素晴らしくて、聖体拝受の教会で暗がりから父が出てくる場面、屋根裏で振り子を初めて握る場面、夜のブランコ、駅近くのホテルなど絵画的で繊細で心情の推し量れる映像。父親は共和制からフランコ政権に変わった際に思想的理由から投獄され、かつての恋人とも別れ、北の地で孤独に過ごしている。けれども南の暮らしを恋しく思っているよう。南の世界は、父の乳母が独特に魅力ある人物に描かれていることから想像がつく。正確に言うと昔の南の世界かな。というのもかつての恋人の、劇中で3回も殺される役だったなんていう台詞が凄く意味深。なんか恋人と別れる時には既に家庭があるような年代関係だが、そこら辺も何か設定があるのだろうか。娘が15歳の後半部分、特に印象的なのはホテルでの二人のランチ。9歳のときに楽しく踊った曲がバックで流れながら娘は笑顔を見せない。自分の過去を突っ込まれた父親はいたく動揺する。付き合っている男の子の軽口を叩いても笑顔ひとつみせない娘。父親に対して、許したり甘えたりといった感情ではなく、一対一に向き合う姿勢というのかな、この辺りの娘の感情は良く判らなかった。なんとなく、父の過去や孤独を敵対視しているというか、隠し事を嫌がるというか、異物感を感じさせるような振る舞いに思えた。前半部分だったはずだが、父が(恐らく北の孤独に耐えられず、家の前の道を国境と呼ぶのもそこら辺の表れか)ふと家出するようになってからの家庭内の重い空気に対抗するために娘がベッド下に隠れる場面。沈黙という娘の挑戦に対して父は沈黙をもって、娘より悩みの大きいことを示して対抗したという部分が凄く良い。娘の無力感と父を奪われる悲しみがベッド下の暗がりと涙に良く表れていると思う。父親がダウジングするなど超能力者的であるというのが、単に無条件に父を尊敬して親しむ娘というためだけの描写のようでやや残念。まあ一層幻想的になってはいるが。一番良く判らないのは初めての聖体拝受の日に銃声を轟かせていたこと。教会とかに何か意味があるのだろうが、迫力充分だっただけに残念。★★★ 繊細な光と影で父親の孤独に父を奪われた娘の心理を細やかに描くエル・スール(El Sur)【仏・スペイン】 (1983年 95分)監督:ヴィクトル・エリセキャスト:オメロ・アントヌッティ/オーロール・クレマン脚本:ヴィクトル・エリセ撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ配給:フランス映画社字幕翻訳:吉岡芳子ジャンル他:tドラマ、t女性、t子供、t戦争、t政治、評価:★★★