出典:(タイトル=表題)、杉若弘子(2003)、風間書房



セルフコントロールとは:

自分の行動を自分で操作、統制していくこと(原野、1980;宮下、1987)p1




行動論的セルフコントロール:p2-4

 行動理論を基盤とするセルフ・コントロールの理論ならびに技法のことp2


・行動主義の学習理論(Watson 1913, Skinner 1938 1953, Hull)


・社会的学習理論をはじめとする認知的要因を組み入れた学習理論(Bandura 1977a)



行動論的セルフコントロールの意義:


1.行動論的セルフコントロールはセルフコントロールを獲得するための方法を提案できる

 (セルフコントロールは学習可能なもの)


2.行動理論の特徴でもある実証的なデータに基づく(evidenced-based)方法であること

 (教育内寮での指導、援助、説明責任といった要請にこたえうる情報を提供できる)





セルフコントロールの2タイプp5-6


①調整型セルフコントロール(redressive self-control)

=一時的に生じている情緒的問題を改善しいわば機能不全を回復しようとするもの


②改良型セルフコントロール(reformative self-control)

=将来生じるかも知れない問題の影響性を最小限に抑えようとするもの




・Nerenz & Leventhal (1983)のセルフコントロールの分類


 emotion control:嫌悪的な治療を受けている最中に不安や痛みを制御しようとするもの→①


danger control:将来の健康を害さないように不健康な生活習慣を変化させる→②




・Kanfer & Schefft (1988)のセルフコントロールの分類


corrective self-regulation:現時点で妨害要因の影響を受けている機能を回復するためのもの→①


anticipatory self-regulation:将来の結果を予測して自発的に実行されるもの→②






セルフ・コントロール研究の問題点のひとつp9


 =個人と状況に応じてセルフ・コントロールの方法が明らかにされていない


 個人→内的要因(個人差) 状況→外的要因






調整型セルフ・コントロールに影響する要因p51-p63


・行動レパートリーが少ないものはレパートリーの多いものに比べて状況の影響を強く受ける


・調整型セルフ・コントロールは、課題志向的なので、目標達成の困難度の影響が大きい(八木・若杉 2000)


・行動レパートリーが少ないものに課題志向的な調整がらセルフコントロールを学習させるには、目標達成が容易な状況から困難な状況へと、順次取り組むようすすめる必要がある


・非課題志向的な調整型セルフコントロールは、状況の影響のみうける


・目標達成の困難度が高まると、非課題志向的な調整型セルフコントロールは増加する


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*課題志向的な調整型セルフコントロール

「うまくらればできるはず、と自分に言い聞かせる」

「うまくスピーチを終えたときのことを想像する」

「調子よく話している自分の姿を想像する」

「成功していた人のスピーチの場面を思い出す」

「よし、がんばろう、と気合を入れる」


*非課題志向的な調整型セルフコントロール

「友達と雑談して気を紛らわせる」

「ほんの数分我慢すれば済むこと、と考えて気をそらす」

「テストとは全く関係ないことを考えて、気をそらす」

「失敗しても大してことでないと自分に言い聞かせる」

「どうにかなるさと開き直る」

                     因子分析の結果より p45

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・課題志向的な調整型セルフコントロールには個人差と状況(内的要因と外的要因)の交互作用が、


・非課題志向的な調整型セルフコントロールには状況(外的要因)の影響が見出された




・外的要因の影響


→課題志向的な調整型セルフコントロールは失敗経験を重ねると減少する傾向にある


→非課題志向的な調整型セルフコントロールは失敗経験を重ねると増加し、さらに失敗を重ねても維持される




・内的要因の影響


行動レパートリーが多いものは、少ないものに比べ、状況の困難度により柔軟に対処していた




・結論

課題志向性の異なる調整型セルフコントロールを状況に応じて使い分けることで、情動的・認知的なストレス反応がより効果的に制御されることが示唆された





改良型セルフコントロールに影響する要因p65-88


・抑制的アプローチは行動期間と目標達成確率のどちらか一方の条件が悪化するだけで行使されにくい


・積極的アプローチはどちらか一方の条件が整えば実行度が低下しにくい


・行動レパートリーが多い群は目標達成確率が高ければ行動コストが大きくなっても実行度の低下が少ない


・行動レパートリーの少ない群は目標達成確率にかかわらず行動コストが大きくなると実行度の低下が大きい


・行動レパートリーが多い場合には、多少行動コストがかかっても100%の目標達成を目指したセルフ・コントロールに取り組めるが、


・行動レパートリーが少ない場合には実行可能な行動コストから順次取り組む必要がある


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改良型セルフコントロールの維持過程に影響する外的要因

1. 行動期間:目標達成のための行動を継続する期間

2. 行動コスト:目標達成のための必要な労力

3. 目標達成確率:セルフ・コントロールによってどの程度の割合で目標を達成できるか



抑制的アプローチの例)

食事制限


積極的アプローチの例)

運動療法

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結論:


・改良型セルフ・コントロールは積極的アプローチを優先させた方が維持されやすい


・改良型セルフコントロールを成功させるには、行動レパートリーの個人差に配慮したプログラムを組む必要がある





総括p89-99


・課題志向的な調整型セルフコントロールと非課題志向的な調整型セルフコントロールは異なる機能を有する。


・個人と状況に応じてコントロールを適用することで、情動的・認知的なストレス反応がより効果的に制御されるだろう。



・いったん活性化した改良型セルフコントロール改良型セルフコントロールを目標達成までの期間維持する方法


 1.積極的アプローチ>抑制的アプローチ の優先


 2.行動レパートリーに応じたプログラムを組む

  行動レパートリーが少ない場合には、行動コストを低いレベルから徐々に増加させていく


 3.下位目標の設定で、長期にわたる動機付けやパフォーマンスを高め、改良型セルフコントロールからの離脱を防止する

  (bandura 1982, Carver & Sheier 1982, Stock & Cervone 1990 他)



・セルフコントロールによる行動制御を教育・臨床場面へ適用する際の指針を提唱



・課題

セルフコントロール個人差評価尺度の洗練


得られた結果の一般化はどこまで可能か


実際場面に近いアナログ実験(analogue study)の検討


各々のセルフコントロールの組み合わせに関与する要因の解明と、適切な組み合わせ方の検討