出典:村上治、松岡洋, 2007, 自律訓練法とバイオフィードバックによる効果がセルフ・コントロールの認知的側面に及ぼす影響 -セルフ・コントロールの二次元的評価尺度を用いて-, Japanese Journal od Autogenic Therapy, 27(2), 32-41



はじめに

学校教育の場における心の問題として、情動や行動等の自己による調整、いわゆるセルフ・コントロール(以下SCと表記)の不全の問題であり、その育成の重要性である。


Rosenbaum(Rosenbaum. M, 1989, Self-control under stress; The role od learned resourcefulness Advances in Bahaviour Research and Therapy, 11, 249-258)は、

調整型SC(情動的・認知的反応を制御し恒常性を回復させるために行われるストレス情況への対処)と、

改良型SC(より望ましい行動へ変容させるために行われるもの)

の2種類のSCがお互いに保管し合うもので、それらを二次元的に評価する重要性を指摘した。


著者は、その提言を基に日常生活場面における二次元適評かを可能とする尺度RRS(Redressive-Reformative Self-control Scale)を開発した。

セルフコントロールには自律訓練法(AT)およびバイオフィードバック(BF)が含まれており、この研究では、AFとBFの各技法と両技法を併用した計3種類の訓練による効果が、2つのSCの認知的側面に及ぼす影響を確認することを目的とし実施した。



方法

大学生28名、専門学校生23名の計51名(男性16名、女性35名)

AT群13名

BF群13名

AT+BF群13名

統制群12名  

平均年齢20.9歳(SD2.08)


概要説明前および訓練期間終了後において、被験者全員にRRSを実施し、訓練期間前後におけるSCの二次元的評価の変化を調べた。

バイオフィードバックの自己評価には末梢皮膚温を使用した。



結果

1)ATおよびAT・BF併用による訓練は、SCの認知的側面に影響を及ぼし、主として改良型SCに変化をもたらす

2)ATおよびAT・BF併用による訓練は、行動面における肯定的変容を促す可能性が示唆された

3)ATとBFの併用は、単独実施に比べ訓練を容易にし促進する傾向が示唆された


〈訓練実施時に使用した方略に関する内省報告〉

・イメージを利用する(入浴・太陽光を浴びる)

・呼吸を整える(長く、深くする)

・意識を集中し、具体的に念じる

・身体の力(肩の力など)を抜く


〈身体的および心理的変化に関する内省報告〉

・気分が落ち着き、リラックスできるようになった

・集中力がついた

・寝付きが良くなった

・各場面で自分をコントロールできるようになった

など


考察

結果は、教育臨床場面においてSCの能力育成を図り、SCによる行動制御を取り入れる際の方略を提示する点で意義深いと思われる。今後、自己の潜在的な支援を最大限生かしたSCを実現するため、支援ツールとしてのBFが果たす機能と役割の検討が重要であろう。

今後の課題としては、SC技法の持つ特性と、技法を適用した場合のSCの育成方法の確立を目指すことが必要である。

また、RRSを実施を用いた査定により個々のもつSCの特性を明らかにし、その特性に応じた方略の検討を通して、より効果的なSCの育成方法の確立を目指すことが必要である。




★セルフコントロールについて、具体的な報告を交えながら評価を行っている。

1次元ではなく、2次元的に評価したところはこの研究のユニークさ(独創性)となる。

実験群、統制群、実験前後と実験研究のデザインとしてもきちんとした手順を踏んでいる。

この研究の限界については触れられておらず、その部分の考察は必要であったように感じる。