看護における発達障害研究は依然発展途上の段階にある。その研究報告は数少なく、日本における研究実態については木戸らの研究によって右のような結果が明らかになっている。(木戸久美子 他 (2008)発達障害をもつ人への看護の実態に関する文献的考察、 山口県立大学看護栄養学部紀要、1、 25-29)うちほとんどは発達障害児と親に関する研究が見受けられ、一方で成人のPDDを扱う研究は日本にほとんど存在していない。 水間による成人期に発達障害を告知されたケースの研究(水間宗幸(2006)成人期に発達障害を告知されたケースのライフステージからの検討、九州看護福祉人学紀要、8(1)、88-92)のようなケーススタディレベルのもの、そして解説や総説なども多い。(細川正人(2008)【成人の「発達障害」を理解する】広汎性発達障害を伴う処遇困難事例と援助、訪問看護と介護、13(9)、743-747 他)
障害受容に関すること |
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5件 |
親支援 |
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23件 |
日常生活指導 |
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6件 |
教育 |
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2件 |
外国における看護の紹介に関するもの |
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2件 |
リスクの高い行為への介入 |
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6件 |
発達障害の認知 |
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1件 |
遊び |
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1件 |
他部門との連携 |
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4件 |
医療場面におけるプレパレーション |
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2件 |
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計 52件 |
日本のみならず他国においても成人の発達障害研究は小児のそれに比して非常に少ない。Pubmedにて(pervasive developmental disorder OR autism spectrum disorder) AND nursing care AND adultでの検索で69件が該当したが、自閉症児または広汎性発達障害者を持つ親がどう対処しているかについての文献が目立った(Higgin DJ . et al.,(2005)Factors associated with functioning style and coping strategies of families with a child with an autism spectrum disorder, Autism, 9(2):125-37.など)。
そのなかでも成人広汎性発達障害者に注目した文献も見受けられたが(Stokes M. et al. (2007)Stalking, and socilal and romantic functioning among adlescenrs and adults with autism spectrum disorder, J Autism Dev Disord., 37(10), 1969-1986)(Ganz ML . (2007) The lifetime distribution of the incremental societal costs of autism. Arch Pediatr Adolesc Med.161(4):343-9.) (McIntyre LL et al.,(2002) Behaviour/mental health problems in young adults with intellectual disability: the impact on families. J Intellect Disabil Res. 46(Pt 3):239-49.)これらは成人PDD者の行動や情動面に着目している。
しかし、行動障害に注目するだけでは社会不適応が解決するわけではなく、当事者と彼らをとりまく定型発達の者が抱える具体的な問題をコミュニケーションや社会性や人間関係といった側面から理解し、適切な補助・援助が供されることで実践的看護アプローチに結びつくと推測される。
さらに現時点では社会不適応という「現状」に言及する研究は目立つが、「介入」の研究は希有であるようである。例えば社会のルールへの意識の欠落情動的に不適切な行動も指摘され、(Gillberg, C. (2001) Asperger syndrome and hi functioning autism: Shared deficits or different disorders? The Journal of Development and Learning Disorders, 5, 81-94) 実用的言語と非言語的コミュニケーションに弱いこともあげられている(Tantam, D. (1991) Asperger syndrome in adulthood. In U Frith(Ed) Autism and Asperger syndrome, Cambridge: Cambridge University Press, 147-183)。一般的には年齢に伴って社会性はある程度発達するものの、適切とはいいがたい社会的コンピテンスや社会的規範における問題を持ち続けるという報告がある(Osmond, G. L. et al., (2004) Peer relationships and social and recreational activities among adolescents and adults with autism, Journal of Autism and Developmental Disorders, 34, 245-256) 。
PDDの成人が社会的障害と人間関係の希薄さに苦しんでいるという結果にも言及もあるが、(Engstrom, L. et al., (2003) Psychosocial functioning in a group of Swedish adults with Asperger syndrome or high-functioning autism, Autism, 7, 99-110) 、小児や重度の知能低下のある人々に比して、高機能(ここではWAIS知能検査でIQ70以上を仮定する)のPDD者のニーズに対する指導法や援助、社会適応へのサポートはまだ確立していない。
★自分が成人・高機能のPDDがとても気になっていたとき、同じようなことを考えている人の本に出会い、やはりこれだ!と確信した。
発達障害の「実態」はある程度研究されていても、「介入」はまだまだ少ない・・・。