83話

__いつの間に眠ってしまったのだろうか・・
カーテンの隙間から差し込んでくる光の筋の眩しさに、類の意識はだんだんと覚醒してくる__。
ぼんやりとうす目を開けると、いつも通りの冷たい真っ白なシーツの海が広がっていた。

_ああ、もう朝か。
類は半覚醒の意識の中で、背中に意識を集中するが、、いつも感じていた小さな温もり、静かな息遣いがないことに気がついた。

_・・牧野?
類はのっそりと起き上がり、「ふわわわわ・・」と両手を広げて大あくびをすると、寝ぼけ眼でキョロキョロと部屋を見回すが、、昨夜腕に抱きしめていた筈の牧野の姿は見えず、シーツはもぬけの殻だった。

__先に起きたのだろうか。
類がぼんやりとした頭でそんなことを考えながらベッドを降りて、何故かいつも牧野がいるキッチンへ向かうが、期待した光景はそこになかった。

「_いない。」

類が寝起きで上手く働かない頭を覚ますために、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してキャップを捻りコクコクとのみ干すと、、冷たい刺激が食道を通り胃に落ち、だんだんと意識が覚醒してきて、なんとなくだけど状況がつかめてくる。

「_牧野、、帰っちゃったんだ。」

どんなに息を潜めて、意識を耳に集中させても、だだっ広い静かな部屋の何処からも小さな物音一つしない。
類は思わず独り言ちた言葉は、どこか頼りなく、静かすぎる部屋の空気にあっという間に溶けてなくなる。

類はぼんやりと手元の水を眺めながら、なんとなく昨夜のことを思い出した。

_あいつ、泣いていたな・・。

昨夜の嵐のような狂乱も、こうして寝て覚めてみると嘘のように収まり平らかだ。
どうしてあそこまでの苛立ちを牧野ぶつけてしまったのか・・自分でもよくわからなかった。

こうして冷静さを取り戻してみて初めて見えてくる真実。

牧野の言う通りなんだろう、仕事の延長線上で偶々あきらに頼ってしまっただけだということは一目瞭然だった。

「・・・」

_あの時、、、そう、遠目で二人が抱き合っている姿が目に飛び込んできた時、息ができなかった・・。
その瞬間、身体中の血の気が引き、自分の中の獰猛な何かに取り憑かれて支配されてしまった。

_別に、あんな事がしたかった訳じゃなかったんだ。

ただ、あきらの話を嬉しそうに頬を染めて話す牧野の顔を見ているうちに、それまでもやもやと感じていた何かが爆発した。

_止められなかった。欲望のままに抱いて傷つけた。

類の脳裏に、驚愕の表情を浮かべ大きな瞳いっぱいに涙を浮かべた牧野の表情が浮かび、後悔の痛みで胸が疼く。

類は両手で頭を抱えるように俯くと、いつまでも脳裏を離れない牧野の泣き顔が笑顔に変わるまで記憶を遡る事に終始した。




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