なま美 | 脳内図書館

なま美

気付くとわたしは、目に見えないくらいの薄い膜を被って生きていた。
そいつがわたしを形取り、日常を過ごしている。

そいつはゴムで出来ているから鈍感だ。

感度が鈍いということは、時に都合がいい。

ましてや、わたしのような人間にとっては殊更都合がよかった。

膜の内側に収まっている「なま美」は、黙ったままじっと様子を伺っており、ごくたまに口を開く。

『彼女のこと、本当はわかってたでしょう?』

なま美は冷めた目をして言った。

『彼は幸せとはいえなかった』

なま美は過去を回想し、苦い顔をした。

彼女はしばらく考え込んだあと、わたしが悲劇のシナリオに入り込む理由は、「単なる寂しさを感じること」を死の恐怖として捉え、頑なに拒んでいるからだと言った。

単なる寂しさを悲劇に仕立て上げることで、核心にある「寂しさを感じる」ということから逃げられるからだと。

そして、すべての発端は、自分を価値ある存在だと認められないからだと諭した。

「感度が良すぎるのも大変なんだけど、ちゃんと感じたらプラスになる。
感じることイコール、わたしがわたしとして生きるってことなの」
なま美は含み笑いをした。

ゴムに頼ってるわたしに比べ、なま美は強い。

やっぱりなま美がいいなぁと思った。