「みぶさん、後ろ、後ろ!」
今夜の“不思議ものがたり・みぶ真也の深夜のみぶ”は
「宇宙人と幽霊」(後編)
ラジオ関西AM558khz 毎週月曜夜21:00~21:15
「なごみのひととき」
番組後半のコーナーです。
ラジコでもどうぞ
「あんた、元探偵だったらしいわね、力(りき)」
通天閣が見える公園のベンチでバーボンのポケットボトルに口をつけようとした瞬間、不意に声をかけられた。
女が一人、前に立っている。
西成の飲み屋で、朝からよく見かける女だ。
「探偵をやってたのは昔のことです」
俺はボトルを口から遠ざける。ストレートのバーボンより苦い思い出が甦った。
「諸経費込み、日当二万で受けてくれないかしら」
バーボンの栓を閉じる。
「いい話ですね」
女の名は津島かなえ。
依頼は、夫の浮気調査だった。
旦那の名は津島耕三、手広く商売をしているらしい。
浮気は間違いない、と彼女は言い切る。
だが、滅多に帰宅しないし、彼の仕事内容も詳しくはわからない。
肝心の旦那を何処で捕まえるかが問題だ。
俺は、ヒロという情報屋に調べさせた。
「『ドミナE』というSMバーで見かけたという奴がいました」
翌日、早速ヒロが情報を持ってきた。
「耕三にはSM趣味があるのか」
「それは不明ですが……」
「行ってみるか」
店内は薄暗かった。
「ウォッカ・マティーニをステアじゃなくてシェイクして」
バーテンダーに注文する。
「かしこまりました」
慇懃な答え。
ふんどし姿のスキンヘッド男を縛り上げ、天井から吊り下げ終えた店のママが奥からカウンターにやって来た。金髪のギャル風なのが、この界隈では珍しい。
「探偵さん、訊きたいことって何?」
「この人を知らないかな」
スマホを取り出し、かなえから送って貰った津島耕三の写真を見せる。
「ああ、見たことあるわ。二回程、うちに来たかな」
「どんな男だった?」
「無礼な奴。マゾを調教するところを見せてくれ、と言うんで“見世物じゃない”って追い返したわ。それが最後」
「いつ頃のこと?」
「もう一年以上前ね。時々、そういう面白半分の奴が来るのよ」
一年以上前なら、手掛かりにはならないだろう。
「あ、その人ですか」
バーテンがスマホを覗き込んで声をかけて来た」
「覚えてる?」
「ええ、この店じゃなくて『D坂』っていうホテルの近くで何度か見かけた覚えがあります」
「D坂か……」
店の奥では、スキンヘッドのふんどし男の体がブラブラと揺れていた。
耕三を見つけたのは、D坂の側で張り込んでから四日目だった。
キャリアウーマン風の女とホテルに入って行こうとするところを、スマホで撮影しようとしたら、不意に後頭部を何かで殴られて意識がなくなる。
目を覚ました時は、ふかふかの絨毯の上に横たわっていた。
後頭部がズキズキして、耳鳴りもする。
立ち上がろうとすると、何やら紙切れが落ちているのが目にはいった。
そいつをポケットに入れて、辺りを伺う。
どうやらホテルの一室のようだ。
目の前にはダブルベッドがある。
その上には、一糸まとわぬ女が俺を誘うかのように横になっていた。
先程のキャリアウーマンらしい。
素晴らしいプロポーションだ。
ただ、残念なことに一つ難点がある。
形の良い乳房のあいだにナイフが突き刺さっていたからだ。
既にこと切れているのは明白だった。
先程から聞こえている耳鳴りが、パトカーのサイレンだと気づき慌てて部屋を出た。
ここに居れば、間違いなく殺人犯にされる。
廊下の端にある窓から身を乗り出し、壁づたいの非常階段を駆け下りた。
埠頭の倉庫の横に、ベンチが四つ並んでいる。
北の端からA、B、C、Dと記号が振ってある。
俺は、ホテルの一室から持ち帰った紙切れをポケットから取り出して再読した。
「三月二十日十四時、X埠頭のベンチ、Aから順次……」
あとは文字がかすれて読めない。
AベンチからDベンチまで順番に何かが起きるというのか。
大きなバッグを持った男がやって来た。
Aのベンチに腰掛ける。
順次……
というのはもしかしたら「順番」ということではなく、名前では……
天啓が閃いた俺は、彼の隣に座った。
「滝渕さんですか?」
男が言った。
「君は順次くんだね」
「はい」
「計画が変更になった。俺が君の代わりにここで待つ」
「わかりました。取引が終わったら、倉庫で待ってる津島さんの所へバッグを届けてください」
「わかった」
順次という男が立ち去ると、大柄な男がやはり大きなバッグを持ってやって来た。
「滝渕さんですね」
俺が尋ねると男はうなづき、俺たちは黙ってバッグを交換する。
滝渕という男と俺は中身をあらためた。
渡されたバッグには札束がぎっしり詰まっていた。
「確かに」
彼が去った後、札束のバッグを片手に倉庫へ入る。
中年の男が待っていた。
かなえから貰った画像のままの容貌、津島耕三だ。
「君は?」
耕三は怪訝な顔で俺を見る。
「殺人犯になりそこなった男ですよ。耕三さん、あなたが麻薬の取引をしていることは調べがついています。それに気づいてあなたを強請ろうとした女を殺し、たまたま奥さんに浮気調査を依頼されて尾行していた俺に罪を着せようとしたのもあなたですね」
「証拠はあるのかね」
「今のところありません。しかし、通報したのでもうすぐここに警察がやって来ます。証拠は彼らが見つけてくれることでしょう」
「私を脅すのか?」
「いいえ、すぐにここを出れば安全に逃げ切ることの出来る経路を見つけてあります。信用してもらえるなら案内します。奥さんにも、浮気の事実はなかったと報告しましょう」
「条件は?」
「このバッグの中身の半分です。ここにいて身の破滅を待つより、半分の金額を持って逃げる方が得策だと思いませんか?」
俺は微笑んだ。彼が承知するのは間違いない。
「いいえ、全額いただくわ」
背後から女の声が響く。
振り返ると、津島かなえが婦人用コルトを片手に立っていた。
驚いて耕三の方を向くと、彼も笑顔を浮かべている。
「力さん、あなたは最初から間違っていたのよ」
「と、言うと?」
「この人があの女と浮気をするわけがないもの」
「………」
「この人はゲイ、私はレズ。つまり、私たちの結婚は偽装なのよ。私のレズ相手が麻薬取引に気づき強請って来たのは本当だけど、彼女を始末する為に元探偵さんを利用して犯人になって貰うことを提案したのは私よ」
「……じゃ、俺は最初からはめられてたってわけか」
「あとは、ここで死んでいただいて物語は終了よ」
引き金にかかった彼女の指が動く瞬間、どこからか跳んで来た一本鞭がコルトを叩き落とした。
「探偵さん、危ないとこだったわね」
いつの間に現れたのか、ドミナEの金髪ママがボンデージ姿で立っていた。
「畜生!」
叫んで銃を拾おうとした耕三の体を、さらに勢いよく鞭で吹っ飛ばす。
「奥さんを捕まえておいて!」
ママに言われて、俺はかなえの両手首を後ろ手に掴む。
見事な縄さばきであっと言う間に耕三を縛り上げたママは、さらにかなえを縛って動けなくした。
「縄がだいぶ余ったわね。あんたも縛ってあげる」
断る間もなく、俺まで縛りあげられた。
倉庫の大扉が開く。
「警察だ!」
年配と若い刑事のコンビが入って来た。
年配の方が、
「今、麻薬を所持していた滝渕を逮捕しました。ご協力ありが……」
そこまで言って、金髪ママの方を見た途端、呆然とする。
影になっていて気づかなかったが、よく見ると年配の刑事はドミナEで吊るされていたスキンヘッドのふんどし男だ。
「ご、ご協力、あ、ありがとうございました。く、く、黒幕はこの三人ですか?」
ぎこちなく尋ねるスキンヘッド刑事に、
「いや、この二人だけよ。こっちの人は、ただ趣味で縛られてるだけ」
自分にそんな趣味はないと反論したかったのだが、スキン刑事が同好の士を見るように暖かいまなざしをこちらに向けるので切り出せなくなった。
「タケ!」
と、彼は若い刑事に向かって言う。
「はい」
「容疑者二名と、趣味で緊縛されてる方を連れていけ。私はこちらの女性にもう少し事情を訊く」
「了解です」
俺たち三人はタケと呼ばれた若い刑事と建物を出た。
扉の中から、“お前も縛られたかったんだろう”という声に続いて鞭の音と男の悲鳴が聞こえたような気がしたが、おそらく空耳だろう。
日差しの暖かいベンチに腰掛けると、ズボンのポケットの中のものがカタンと音を立てる。
ひとくちも飲んでいないバーボンのボトルだ。
蓋を開けてぐっとあおる。
見上げる目に通天閣が映った。
バーボンの熱い喉越しの中で、報酬の出なかった探偵仕事の大いなる縛りが解けていった。
おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。
矢沢永吉さんがツアー先で、いつものスイートルームが確保できず普通のツインしか取れなかったとスタッフから報告を受けた時、
「うん、俺はそれでいいけどYAZAWAがなんて言うかな」
と、名言を残しました。
ロケ先で、予定していたホテルが満室で泊まれないとADさんから伝えられた時、ぼくも、
「いいけど、MIBUが……」
「とにかく民宿でもネカフェでもサウナでも見つけて、明日の朝は遅れないで集合してくださいね」
「今夜は満室でなあ、このあたりに他の宿もないし」
民宿の主人はそう言った。
「野宿するしかないんですか」
「あ、そうだ。横山の家なら泊まれるかも知れん。何しろ広い家にあの男が一人暮らしだからな」
ぼくは主人にその家の場所を聞く。
「わしから電話を入れておいてやるでな」
「ありがとうございます」
早速訪ねて行った横山家から、住人らしい男がのこぎりを片手に出て来た。
彼を見てたちまち震えあがった。「悪魔のいけにえ」のレザーフェイスとそっくりの顔だっだのだ。
「道に迷って今夜寝るとこもなくて……」
「ああ、民宿の五兵衛から電話で聞いとる。一晩泊まって行きなされ」
顔は怖いが、親切な人らしい。
夕食もご馳走になり、二階の部屋に案内された。
階下からのこぎりを引く音が聞こえてくる。
夜になっても何か仕事をしているらしい。
そろそろ寝ようかと横になった時、ふすまが開いて横山という男が缶ビールを二つ持って入って来た。
「よかったら一杯飲まんかね」
「ありがとうございます」
階下からは相変わらずのこぎりの音。
確か、民宿の主人は“広い家にあの男が一人暮らしだ”と言ってたはずだ。
だとしたら、今のこぎりを引いてるのは一体誰だろう?
ビールのプルトップを開けながら、ぼくは疑問を口にしてみた。
「横山さんはお一人で暮らしてるそうですよね。じゃ、今、下で仕事をしてるのはどなたなんですか?」
「ああ、あれはのこぎりだで」
「のこぎりは分るんですけど、誰がそののこぎりを引いてるんですか?」
「だから、のこぎりがのこぎりを引いとるんじゃ」
「は?」
横山はぼくを一階に案内し、作業場の扉を開けた。
そこで、ぼくは思わず立ちすくんだ。
のこぎりが宙に浮いたまま、長い木の棒を一定の寸法に勝手に切断していっているのだ。
「こ、これは?」
「たまげなすったか。あんた、つくも神て知っとるか。道具を九十九年使い続けると魂が宿ってつくも神になるんじゃ。こののこぎりも丁度九十九年使ってたんで、つくも神として自分で勝手に仕事してくれてるんだ」
「そ、そうなんですか。ぼくはてっきり、横山さんの顔がレザーフェイスに似ているから超能力でのこぎりを操ってるのかと。むこうはチェーンソーですが」
ぼくが思わずそうつぶやくとのこぎりが動きを止めて空中に舞い上がり柄をぼくの方に向けた。
それから、刃が動きながら人間の言葉で「オ~マ~エ~ハ~ア~ホ~カ~」