司法制度改革で弁護士の数が増える中、高額の弁護士費用を嫌って自ら訴訟を起こす、「弁護士なし訴訟」が急増しているそうです。法律のプロを相手に素人が戦いを挑むのは、手続きなども含め、無謀な気もしますが、経験者に言わせれば「思いのほか簡単」のようです。
最高裁が年度ごとに集計する「第一審通常訴訟既済事件数」によると、弁護士なし訴訟の件数は2006年まで3万件前後で推移してきましたが、07年以降4万1000件、4万8000件と右肩上がりに増加。09年には一気に5万4000件に達しました。一方、弁護士数は2000年に約1万7000人でしたが、昨年12月に3万人を超えました。
急増の背景について関係者は「弁護士費用は1回数十万円と大きく、敗訴リスクを考えれば気軽に依頼できるものではない。ただ、インターネットで訴状フォーマットを参考にし、裁判の進め方のアドバイスも見られることから、弁護士なし訴訟の障壁がだいぶ薄らいだのでは」とみています。
民事訴訟の大まかな流れは、訴状提出→被告側答弁書→答弁書に対する反論書面→口頭弁論→集中証拠調→人証尋問→結審→判決。70万円の賃金未払いに関する弁護士なし訴訟を起こした男性会社員は「最も労力を要するのは、訴状作りと証拠品の申請。訴状さえ作れれば、裁判官も書記官も非常に親切に対応してくれます」と振り返り、こう続けます。
「最初のステップとなる訴状提出は、モデルケースごとに無料のフォーマットがネットで参照できるので自身のケースに当てはめて作ることです。後は証拠品の提出。相手の弁護士は、こちらの法律的瑕疵を専門用語を並べて指摘しますから法廷では相当のプレッシャーを受けますが、雇用時の契約に関する提出証拠が万全だったことから、判決で全面勝訴となりました」
都内で民事訴訟を専門に扱う弁護士も「裁判所は、最低限の書式さえ間違っていなければ形式にはこだわりません。それより、相手側(先のケースの雇用側)が支払いを拒む法律的根拠を覆すだけの客観的証拠が重要となりますから、この準備に時間を割くべきです」とアドバイスします。
「本人訴訟の審理構造」 の著者で弁護士の棚瀬孝雄・中大教授は「単純な増加かどうかは検証が必要」とした上で次のように語ります。
「弁護士に依頼することをためらうような中途半端な金額の訴訟が増えたのなら、事件(訴訟)の裾野拡大との意味で悪いことではない。無論、弁護士による訴訟は、最新の法律知識を駆使したプロならではのメリハリがあり、何十万円を支払うだけの価値もある」
弁護士なし訴訟に踏み切るかどうかは「訴訟の金額や事件へのこだわりを勘案して判断したらよいでしょう」と話しています。