潤side


翔くんが決断したその時から。
想いが叶ったその日から。
いや、それはきっと出会った瞬間から。

いつかは失うものだとわかっていた…。

 
 


「別れよう…っか。」

「…え」

「あ、違う。
別れて。もう二度とここには来ないで。」

そう言うしかない。
貴方には帰る場所ができてしまった。

「潤……ごめん。」

「どうして謝るの?
わかってたことだよ。
いつかは別れることも…、
翔くんが、結婚することも…。
それをわかってて一緒にいたんだ、俺達。
わかってるから…、だから、、謝ったりしないで?」

結婚するからフラれたんじゃない。
俺がフッたんだよ。
精一杯の笑顔を作ったんだ、
最後くらい優位でいさせてよ。


「合鍵はもう必要ないよね。」

返してと言葉には出さず、ただ手のひらを翔くんの目の前に差し出す。
翔くんの眉がピクリと上がり俺を見つめ、クッと下唇を噛む。

「どうしたの?」

「……持ってちゃダメか?」

「なんで?もう使わないんだからいらないでしょ。」

「持っていたいんだ。」

「どうして?持ってる理由なんてないだろ!」

語尾が強くなる。
声が震える。
冷静じゃいられなくなる。
それを必死に耐える。

早くしてよ、俺だって限界があるんだよ。


二人きりのこの空間が、
これまでの二人の時間と、
幸せな気持ちが溢れて、
貴方に触れたいと思ってしまうから。


「わかった…。」

感情を押し殺していると自然と目に力が入り、翔くんを睨む形になる。
怒っている俺にこれ以上は言っても無駄だと思ったのか翔くんはあっさりと了承した。

「じゃあ、コレ。返す…」

ポケットから出された、今となってただの鍵。


翔くんが持っていなければなんの意味もないのにな…。
返されても要らないんだけどな…。

返して、だなんて形式的なこと。
頭の中では言わなくていい本音が、
浮かんでは、消えていく。



「今まで、ありが…」


本当に終わっちゃうの?
それこそ意外とあっさり。

これまでの俺たちの時間てなんだったんだろ…。



涙でぼやけそうになりながら鍵を受け取るその一部始終を感情を捨てて、ただぼぉっと見つめていた。


え?

「……っ!!」

翔くんの指先が俺の手のひらに触れたと思った瞬間に思い切りその手を掴まれ、身体ごと翔くんに包み込まれた。



「最後に、抱きしめてもいい?」


聞いておいてそれはない。
もうすでに抱きしめてるくせに。


「…嫌だよ。」

「潤…」 


嫌だ。

最後なら…

「最後くらい、キスしてよ。」


燃えるような。
  
「はぁ…っ、じゅん、、」

「ん…ぁ、しょお、く…っ」

忘れたくても忘れられないほどの。




翔くん、愛してる。

これが最後のキスなんて、嫌だよ…。





おわり





【別アカより再掲載】