潤side
頭が痛い。
ズキズキする。
熱があるせいだ。
イライラする。
頭がおかしくなる。
モヤモヤする。
胸が苦しい。
『潤くん…』
これは一体なんなの…
翔さんの声が頭の中にこだまするたび、ずっとこの繰り返し。
苦しいよ…。
これも全部熱のせい。
きっとそうだ…。
―――
昨夜に気怠さを感じ、誕生日を迎えたと思ったらあっという間に熱が上がってきた。
0時ちょうどに翔さんから『お誕生日おめでとう』とLINEが来た。
続けてカズ、相葉くんからも来たけど、
『ありがとう』と簡潔に返信するのがやっと…。
今年は智からのメッセージは来なかった。
僕の誕生日なんてもう忘れちゃったかな…。
でも、、それでも胸は痛くならなかった。
一年近く連絡がなくたって悲しみに暮れることもない。
智を思い出にできたんだと痛む頭で理解し、枕に突っ伏して再び眠りにつく。
「ん……」
ふと投げ出したままのスマホが着信を知らせてる。
………翔さん?
寝ぼけた頭で相手が誰かなんて確認もせず手探りで通話にさせた。
「…も…しもし…」
「あ、出た出た。潤?お前まだ寝てたの?」
げっ、カズ。
カズは昔から僕の不調をいち早く察知する。
やたらと僕の変化に鋭いんだ。
「な、なに?こんな時間に。」
なるべく平静を装い、少し声を張った。
「こんな時間て、、もう昼よ。」
「え…?」
そんな寝てた?
飲まず食わず。
薬すら飲んでないからただ寝てたくらいでは熱は下がらない。むしろさらに悪化してる気もする。
いちいち時間なんて確認してなくて、ぼんやりする視界で時計を見れば確かに時計の針は共に上を向いていた。
「潤!改めて誕生日おめでと!
今日翔さんと出掛けてるんでしょ?
今さ、相葉くんといるんだけど、どこかオススメカフェあったら教えてくれない?
翔さんに連絡しても反応なくてさ〜。」
相葉くんとデート中か…。
「えと、オススメはね…」
以前翔さんと行ったお店を何店舗か教えた。
向こう側から二人の楽しそうな声が聞こえてきて、少しだけ和やかな気持ちになる。
「さんきゅー!潤の誕プレ、一緒に探してたんだ。楽しみに待ってて。
潤も翔さんと楽しんでね!」
「…うん。
あと、ね……、」
「ん?」
「いないよ。」
そのまま訂正しなくてもよかったけど、嘘をつくこともできなくて。
「翔さんとは…一緒にいない……。」
先約もない。誰もいない。
僕はひとりぼっち。
「え、だって翔さん、潤の誕生日はお祝いするって…」
「…うん、誘われた。
でも、断った…。」
「はぁ?なんでだよ。」
「翔さんには別の約束があるから…。」
「そんなのあるわけないじゃん!
翔さんが他の人と?ありえない。」
「あるの!今日は大学の友達と、、くるみさんと会うって言ってたもん!」
カズが強く否定するから負けじと僕も否定する。
「まさか!そんなはず…」
「いいの、別に。僕にも約束があるし。」
「潤が誕生日にわざわざ約束する奴なんて俺ら以外にいるのかよ。
まさか、元彼と…」
「違う!…けど、、とにかく、カズと話してる暇なんてないの。もう切るよ?デート中なんだから僕に構わないで。」
早く電話を終えようと早口に。
あー…、言い争ってるせいでまた頭痛が…。
これ以上話してたら誤魔化しきれなくなる。
「ちゃんと翔さん納得してんのかよ。
潤はそれでいいのかよ。」
カズも僕の嘘に納得してない。
「いいも何も…、もうほっといて!
今日くらい何も考えたくないんだよ…、翔さんのこともくるみさんのことも、もう、何も…
カズに僕の気持ちなんてわかんないよ…。」
頭、痛い。
息が上がる。
「わかるよ。」
なぜかカズは即答した。
「嘘ばっかり。」
「嘘じゃない。」
「じゃあ教えてよ。
嘘じゃないならさ…、教えてよ…。」
ずっと靄がかかって僕の心は晴れる術を知らない。
早くこのどんよりとした気持ちの正体を知りたい。
「それは、できない。」
そしてまたカズはハッキリと言った。
「ほら、やっぱり…」
出口の無い迷路に迷い込んだまま。
もう、いっその事、バイトも辞めようか…
翔さんとはもう会わない方が…
そうしたらこの苦しさから解放されるのかな…。
「それは潤が見つけないとダメだ。」
「え?」
「潤はもうわかってるはずだ。
気づこうとしてないだけだ。」
「……」
わかってる?なにを?
「翔さんに連絡しろ。そこに答えがある。」
「……無理だよ。」
「意地っ張りだな!連絡しろって!」
「嫌、絶対嫌。二人の邪魔したくない。」
「こんの〜…バカ潤!
調子悪いくせに意地張んじゃねぇ!
掠れた声で、涙声で、鼻声で…
辛いんなら、寂しいなら素直に甘えやがれ!」
やっぱりバレてる!
だからカズと話したくなかったんだ。
余計な心配かけたくないのに。
「ちょっとぉ…、潤くん誕生日なんだから喧嘩しないの。」
通話口の向こうで相葉くんのカズを宥める声がした。
「潤くん、体調悪いの?薬はある?
大変な時に連絡しちゃってごめんね。」
「ううん、別に大変てわけじゃ…」
「俺らでよかったらいつでも連絡して、気を使うのはなしだよ。
あと、カズの方も気にしないで大丈夫だから。
潤くんのこと心配で堪らないんだよ。」
「…ん、わかってる。」
「誕生日おめでとう、素敵なお誕生日にしてね。」
「…うん、ありがと……。」
通話を切って、
相葉くんの優しい声に高ぶっていた頭と感情が冷静になる。
「いいな…、カズは…。」
あんなに優しい彼がいて。
「羨ましいな…。」
そばにいてくれるんだろう。
「…ぅ…、」
涙が落ちる。
見ていると心が癒された。
一緒にいて心地が良かった。
辛い時も楽しい時も一緒にいたいと思った。
「カズの言う通りだ…。」
もう、遅い…。
『潤くん、あのね、』
『どうしたんですか?』
『翔って付き合ってる人いるのかな?』
『…いない、ですね。』
『好きな子とかいるのかな?』
『…どうでしょう?』
『私ね、決めたの。
翔に好きだって伝える。』
『え?』
『あの頃と今は違う。
でも翔は変わってない。
私、本当はずっと好きだった。
翔のこと忘れられなかった。』
くるみさんの告白にガンっと頭を殴られたような衝撃があったのに。
誤魔化した。
くるみさんの真剣で屈託のない真っ直ぐな目から視線を逸らせなかった。
『くるみさんとなら、お似合いですね…。』
自ら手放したんだ。
彼はもう来ない。
会えない。
僕は今あなたに会いたい…。
つづく