潤side



「また見てる。」

レッスン室の壁際、体育座りをしてじっと動かないでいた。

ただその目に映る人物だけ、追いかけて。


「…見てる?」

「そんなに見てるのに?わからない?自分で。」

「あまり?」

「無意識ね。」

ハイと差し出されたスポーツドリンク。

「くれるの?」

「買ってくれるの?」

「財布、バッグに…」

「いいよ、冗談だよ。
この前は潤くんが買ってきてくれたんだから、その時のお返し。」

そう言うと自身のペットボトルを開けながら僕の隣にニノも座る。

「ありがと。」

「これでチャラね。」

「ふふっ、律儀だね。
じゃ、遠慮なく。いただきます。」

蓋をひねり、ゴクリと一口。
ダンス休憩の合間、乾いた喉が潤っていく。


「…で、」

「ん?」

「単刀直入に聞くけどさ…」

「うん」

「あの人のこと、好きなの?」

僕らと入れ違いに練習をする人物を指差す。


「指さしちゃダメでしょ!」

「いやいや、オレなんかより潤くんの熱視線の方が遥かにヤバかったよ。
あんなに見てたら本人だってわかるって。」

「…うん、、そうだよね…。
気をつける…。」

そう言われた所でもう視線は自然とあの人を追ってしまう。しょうがない。



「…!!」

視線に気づいたのかバチリと目が合ってしまった。
彼は踊るのを中断し、流れゆく汗を拭いながらこちらへと歩み寄ってくる。


マズイ…
ジロジロと見てたのバレちゃったかな…


視線は斜め下を向く。
ドキドキしながら時がゆっくりと過ぎ、
僕の目の前でその足はピタリと止まった。

「ソレさ、新発売のヤツじゃん。
なぁ、うまい?どんな味?」

「…え?」

彼は僕の持っているペットボトルに興味津々のようだ。

「…あ、えーと、、美味しい…かな。
どんな味かと言われるとなんて言っていいかわからないけど。
普通にスポーツドリンクだし、その味により爽やかさがプラスされたような?う〜、ホントなんて説明したらいいのか…、多分飲めばわかると思…、、あ!僕今から買ってこようか!?」

すくっと立ち上がると財布を取りに一歩を踏み出す…
が、「待て」との声と共に腕を引かれた。


「いいよ、買いになんて行ってたらお前の休憩時間が減るだろ。」

「でも…、うまく味を伝えられないし、飲んだら一発でわかると思うし!
すぐに行けば…」

「だーかーらー。」

「…?」

「そこまでして欲しいなんて言ってないっつーの。
そんなのパシリさせてるみたいじゃん。」

「気にしないよ、そんなの。」

「ちげーよ。お前がじゃなく俺が気にすんの。
気を使われるの苦手なんだよ。」

「ごめん…」

「あーもー!謝ったりすんなって。
別に怒ってるわけでもお前が悪いわけでもないんだから。
なんか、、俺の方こそ悪かった。
変なこと聞いて気を使わせたな。」

あなたもだよ?
どうして僕に謝るの?

頭にポンって手を置いてきて、悪かった…だなんて。




「しょおくんに、早く飲んでもらいたかったな…。」

ニノの反対側、僕を真ん中に翔くんも隣に座ってまた別のグループのレッスンを見学してる。

「ハハッ、まだ言ってんのか?
じゃあさ、とりあえず…
とりあえず今はひと口だけくれよ。それ。」

翔くんが僕の横に置いてあるツンとペットボトルをつつく。

「えっ!でも飲みかけだよ?」

「だから?」

「くち、つけちゃったし…」

「だから??」

僕の気にしていることを全くもって気づいていない。
それは彼にとっては何も意識する事ではない、ただのスキンシップ。

同じボトルを共有すること。
それが間接キスになることなど。
僕がどれだけあなたを意識しているかなどと。

無意識の領域。


「……どうぞ。」

「お、サンキュ。」

おずおずと手渡すと彼は流れるようにキャップを開けると口をつけた。
ゴクッと喉を通る音が聞こえてくるようだ。


「おっ!うまい!
なるほどね〜、こういう感じか〜。
松潤の言う通り、飲んだらわかったわ。
これは説明するの難しいよな。」
 
キュッとキャップを締め、

「じゃあ、そろそろ俺行くわ。
ごちそうさん、また明日な。」

そして再び僕の頭をくしゃっと撫で、彼は爽やかな笑顔を残して去って行った。


返されたペットボトル…
僕も喉がカラカラだよ。

これ、また、僕が、飲んだら。
確実に、間接的に、翔くんと…

キスを。



「罪な男。」

ニノが放った言葉は翔くんに届くはずもなく。

「ごちそうさんてどっちの意味だよ。」

「…。」

「潤くん?大丈夫??
顔、真っ赤だよ。」

放心状態の僕。
そして自分でもわかるくらいに顔が熱い。

「あれは計算?それともマジなやつ?
でもさぁ…、なんであの人なの?
そんなに夢中になるのなら、少なからずそうなった理由があるんでしょ?」

確かに、謎だよね。
男が男を好きになるなんて…。


「…わ…いいって…、言…った…」

「え?」

「……なんでもない。」

言ったら笑われそう、引かれそう、呆れられそう…。
だから言わないでおこう。

「僕、踊ってくる。」

「ちょっとー!潤くーん!」

ニノとその話題から逃げるように僕はレッスンに戻る。






理由なんて、、
そんなのすごく単純なこと。

僕は翔くんが前から好きだった。
恋愛感情なんて知るはずもなくずっと好きで。
先輩としても、頼れるお兄ちゃんのような存在としても。
そんな関係が続いていたある日。

僕は聞いてしまったんだ。


『松潤は櫻井によく懐いてるなぁ。
面倒くさくないか?あそこまで懐かれると。』

『そうかぁ?』

『あぁ、お前んち弟いたんだよな。
弟がもう一人増えたとこで慣れたもんか、そういう子守りは。』

『弟…ねぇ…。』

まさか本人が盗み聞き…、いや、たまたま通りがかっただけで別にわざわざ立ち止まって聞いてるって訳じゃないしっ!なんて、誰にでもなく言い訳しながらもその先の会話が気になって壁にピタリと張り付くようにその場で動けずにいた。


『てか、弟より断然可愛いよ、松潤は。』

………か、かわいい?

可愛いと同性に初めて言われた。
それでその言葉を翔くんが言ってくれたことがこんなにも嬉しくて、胸の高鳴りが抑えきれなくて。

可愛いよ、松潤は。

切り取られたように翔くんの声が頭の中を駆け巡りリフレインしてる。

 

瞬間、恋に落ちたのがわかった。

「しょおくんが…」

ううん…、やっと気づいた。

「すき…なんだ…」

それは嘘偽りのない恋をしているという感情。
あなたはもうすでに僕の中に入り込んでいた。
ほんの一瞬でどこまでも落ちていくこの気持ちに間違いはない。

たとえこの先この言葉を伝えられなくても、
あなたが好き。




おわり





【別アカより再掲載】