翔side



箱を持ったまま潤は固まってる。

「ほーら、開けてみ?」

「…う、うん…」

ゆっくりと開かれ、中から出てきたのはきっと想像通りの…

「指輪…」

「そう、ペアリング。」

潤と俺のふたつの指輪が光ってる。

この日に何を渡そうかと考えた。
潤との思い出を残すのならば受け取りやすいもっとライトな物でもよかった。
でも俺は敢えてわかりやすくベタで最初の贈り物としては重たいであろう指輪を選択。
わざわざ裏側に刻印を施し、まるでプロポーズでもするかの如く念入りに。
俺にはそのくらいの覚悟で準備した物だった。



「しょ、翔くん、俺…こういうのは…」

ある程度の拒絶は想定内。
写真ですら残すことを嫌がる潤がそう簡単に受け取ることはしないと思った。

「気持ちは、すごく、嬉しいんだけど…」

でも迷ってる。
そう言う割に俺に突き返すことはしない。

好きなんだろ、本当は。
したかったんだろ、こういうの。
記念日とか誕生日とかっていうの、大事にしたいよな。
わかるよ、俺も潤と同じだ。


「潤?」

「…」

俯き黙ったまんま困ってる。

「潤。」

「…ん、んんっ!」

強く名を呼び、そのまま覆い被さるようにソファの上に押し倒すと、深く口付けた。

「ん、ふは…ぁっ…、」

「考えるな、感じろ。」

「え?」

その驚いて見開く目をじっと見つめて離さない。

「知らない?ブルース・リーの名言。」

「き、聞いたことはあるけど…」

潤の腕を掴んで引き起こし、正面から見つめ合った。
 

「なぁ、わかる?
伝わるだろ?俺の潤を好きだっていう気持ちが。
言葉だけでは伝えきれない、この気持ちが。」

「……ん…、」

じわりと潤の瞳の水分が増した気がした。


「俺はお前が好きだ。」

忘れもしない5年前の今日。
俺は潤へとこう伝えた。

「…しょおくん……、」

「お前は?」

「俺も……、好き……。」

あの時と同じように、
俺は潤をそっと抱きしめた。


「俺さ、怖ぇんだ。」

「なに…が?」

「あの時よりももっとずっと潤を好きになってる。
これからももっともっと潤のことを好きになっていく予感しかない。
根拠なんてない、でも感じるんだ。
細胞レベルで潤のこと愛してる。
だからさ、潤も見えない不安を考えて怯えるのはもう止めよう?
俺にはなんでも言って?
この手を離すことは絶対にない。
潤と、この指輪に誓う。」

押し倒した拍子に転がった箱からリングをひとつを抜き取ると潤の手を取る。

「受け取ってくれるよな?」

「翔くん…俺…、」



智くんが言っていたことはほぼほぼ当たっていた。
長年の想いが叶い舞い上がる反面、男同士で付き合っていくこの先の未来に不安だけが募る。
芸能界という特殊な場に身を置く俺達には自由な恋愛なんて許されない。
その相手がアイドルで、メンバーで、世界で一番大切な人。


「いつしか願うようになった。
このまま時が止まっていればいいのにって。
過去も未来もいらない、今この時だけでいい。
幸せでいたい、幸せでいさせて…。」

ポタリと零れた涙は指に通されたリングに落ちた。


「ごめん、辛かったな…。
一人で悩ませて、ごめんな…。」

嗚咽に震える身体を両手に包み込んで背中をさすってやる。
手と手を重ね、ぎゅっとつなぐ。


「今日からまた未来に進んでいこう。
潤を置いていかない、ふたりで進んでいくんだ。」

涙で濡れた頬を撫でる。

潤は俺の言葉を信じてくれたかな?

「信じるよ。」

「…潤」

まるで以心伝心。

「しょおくんの言う事は…絶対、だからね。」

ふわりと笑う顔は幼き頃のまま。

「まるで王様だな。」

「帝王だもんね。ふふっ…」

「ふははっ!」

おでこをくっつけて笑う。
そして何度もキスを交わす。
幸せな時間。




「しょお…っ、、わ!落ち…」

大人二人、ソファで抱き合うには狭すぎて…

「潤っ、大丈夫か?」

慌てて潤を支える。


「狭いよな?やっぱベッド行こうか?」

「ん…、大丈夫。今は離れたくない、、
だからっ、きて…」

固く繋がれた互いの手に。
未来を誓い合ったリングが暗闇の中も輝いていた。




おわり…


本編はこちらで完結。
つづきの番外編が少しありますのであと2話、明日より引き続きお付き合いください😊