翔side



「おかえりなさい!」 

仕事が終わり潤の部屋に行くとインターフォンで俺を確認した潤が玄関のドアから飛び出してきた。

「ただいま、潤。」

「すぐご飯食べる?準備できてるよ。」

外はもうすっかり陽が落ちて夕食を食べるにはベストタイミング。
俺も潤の手料理を楽しみに昼も軽く済ませていたからもう腹はペコペコだった。


「上がってー。」

出迎えが終わり、すぐに中に戻ろうとする。
だから、その手をガシッと捕まえた。

「…翔…くん?」

「む!!」

わかりやすく唇を突き出し、おかえりのチュウをねだる。

「翔くん…それは…」

「言わなきゃわかんない?」

「…でも、」

「誰も見てないよ?」

「……うん」

少しの躊躇いもこういうとこは結構素直。

意図するままに潤は俺の肩に手を置くと、そっと唇を重ねてきた。
潤からのキスは繊細かつエモい。
顔を傾ける仕草、そっと閉じられた瞳から覗くまつ毛、無意識に薄く開かれ重なる弾力のある唇。
まるでドラマや映画のワンシーンのようだ。

ほんの数秒、時が止まる。


「満足、した?」

至近距離。
まだいつでもキスできる距離でそれを聞く?

「……した。」

…って一応言っとく。
当たり前だがまだ全然足りねぇ。
まぁ、続きはあとのお楽しみにしておこう。

「ふふっ、よかった。
じゃ、すぐに用意するね。」

またそんな可愛く笑うなって…。
すぐにでも押し倒したくなっちまうだろ。

「腹、減った…。」

色んな意味で。
我慢我慢我慢。
まだまだ今日はこれからなんだぞ!



まずは腹ごしらえ。
店の高級ディナーのように綺麗に並べられた料理に俺は目を奪われた。 

「すっっげぇ!
これ全部潤が作ったのか?
店みたいじゃん!」

「盛り付けでなんとかそれらしく見えるだけだって。ほら、食べよ?」

向かい合わせに座り、いただきますと二人同時に手を合わせた。


「あ、待った!
写真、撮っていい?」

俺のスマホの中の数少ない潤との思い出に今日の日をどうしても残したくて。

「大袈裟…全然大したものじゃないのに…」

「いいんだ、それでも。」

さすがに料理を撮ることは許してくれた。
何枚か写真を撮って、隙を見てスマホを潤に向け、バレないようその横顔をそっと記録に収める。

タイトル、最高の手料理と俺の潤♡
これに決まり。


「さてさて、冷めないうちに食べなきゃね。」

手早くスマホを仕舞うとビーフシチューをひと口。

口の中で簡単に解けていく肉の柔らかさといったら…

「なぁ、潤…。もしかしてこれって…」

「口に合わなかった?」

「まさか!うまい!めちゃめちゃうまいよ!!」

「あー、よかった!」

俺の言葉に潤の顔もほころぶ。
そしてまた次のひと口を口に運ぶ。  

「うん、うまい…。」

これはきっと今日一日だけで作れるものじゃないだろ。
昨日約束して、今日の準備だけでこんなになる?
あれから帰ってから夜遅くに?いや、実はその前から準備を?
料理がダメダメの俺だってこれだけの料理を作るのに時間や手が込んでいることくらいわかる。
俺が今日来れるか来れないかわからないうちから準備してた…ってこと?




「翔くんそんなに食べて大丈夫?」

何度もおかわりをする度に潤は確認するけど残すなんてできるわけないだろうが。
俺は全ての料理を平らげた。
米一粒、スープ一滴も残したくない。
潤の愛情、全部。

「あー!うまかったー!
ごちそうさまー!!」

お腹をポンポンと摩る。

「さすがにデザートまでは入らないよね?」

「あるの!?」

「コーヒーゼリーなんだけど…」

「マジ?まさかそれも?」

「あまりスイーツは作ったことないから簡単なもので…ごめんね。」

何謝ってんの、、
デザートまで作るなんて神かよ。

「食べたい。デザートは別腹だろ?」

「無理しなくても…」

「バカやろ、無理なんてしてねぇよ。」

「ほんと?」

「もちろん。」


ふたつのカップを器に。
食卓テーブルからソファに移動して、今度はふたり並んでデザートのコーヒーゼリーを食べた。

「もう、大満足!!
こんなにゆっくり食事できたのも久しぶりだ。
全部全部潤のおかげだよ、、ありがとう。」

「どういたしまして。
喜んでもらえてよかった。」

「潤…」

今度は俺から潤の肩に手を置き、唇目掛けて顔を傾ける。
軽く唇と唇が触れた。


「ねぇ、今日誘ってくれたのは俺達の大切な日だから、だよな?」

「…うん、今日は翔くんと俺との特別な日…。」

食事の際に摂取した少しばかりのアルコール。
そんなに強かったわけじゃないのに特別な日というフィルターが潤をさらに色づけていた。


「そうだ、こんなに素敵な料理を作ってくれた潤にお礼をしなきゃ。」

「お礼?
それなら何度も美味しいって言ってくれた言葉だけで十分…」
 
「これ。開けてみて?」
 
そばに置いてあったバッグの中から小箱を取り出し、潤の手に。


「翔くん…、これは…」

サプライズチックな演出に潤はぴくりと身構える。

これまで一度も渡せずにいた恋人の贈り物。
大切な日だから…特別な日だから…
絶対に受け取ってもらうよ。




つづく




【別アカより再掲載】