翔side



「…潤っ!!!」

崩れ落ちる彼の身体をすんでのところで腕の中に抱きとめる。
ずしりと重みのかかるその身体はとても熱かった。


「え、嘘…、熱?」

じっとりと汗ばむおでこに首元。
この暑いのにクーラーさえついていない。
多分この熱を持つ身体では寒気を受けてしまうんだろう。
ただ向こうに見える窓は開けられているようでレースのカーテンが揺れているのが確認できた。


「潤…くん?…潤くん!」

再び呼びかけても彼の目が開かれることはなく、それでもとにかく少しでも楽な体勢にしてあげないと…

「え…?」

持ち上げた彼の身体は驚くほど軽くて、体力的にもかなり衰弱しているように思えた。


「お、お邪魔します!」

靴を脱ぎ捨てて、潤くんを抱き上げベッドに運ぶ。
持っていたハンカチで汗を拭い、更にそれを水道で濡らしてきては潤くんのおでこに当てた。

こんなんで熱下がんねぇだろ…。


「なんてこった…。」

まさか熱を出していたなんて。
苦しい思いをしていただなんて…。
誕生日プレゼントより風邪薬が必要だったなんて……。

ふと視線の先に潤くんを支えた時に投げ出したプレゼント達が玄関に散乱してるのが見えた。



どうしよう…

こんな状態の潤くんを置いて外には行けない。
だけど今俺には何も助けになるアイテムも持ち合わせていない。

ケーキなんて買ってきてる場合じゃなかった。
必要なのは水分だろ?薬だろ?

えーと、あとは、、


ブ-ブ-…

ん?着信?

あ、そうだ。
ずっと移動中だったからマナーモードのままで。

と…、ニノだ。


「はい、もしも…」

「やっと出た!翔さん今どこにいんの!!
なんで全然出てくれないの!
LINEも着信もさ!!いっぱいいっぱいしてたのに!」

出た瞬間、もの凄い勢いで怒鳴られた。

「あ、ごめ…」

「まさか翔さんマジで…?」

「ん?」

「ホントだったの?潤の誕生日なのに潤と会わずにあの人と会ってんの?
こんのー!翔さんの潤への気持ちってそんな程度のものだったのかよ!」

「え、ちょ、ちょ、待て待て。
落ち着けって。」

なんか完全に誤解してるぞ。

「潤は、潤はな…、変なとこで意地っ張りだし頑固だし全然素直じゃないけど、だけど、すっごい人一倍寂しがり屋で、それなのに邪魔したくないとかって自分だけが我慢すればいいみたいな余計な気遣いばっかして本当は心細いくせにさぁ…っ」

「に、の…?言ってる事の意味が…」

「もういいよ!翔さんの裏切り者ー!」

「はい??」

「潤のとこにはオレが行くから!」

「え、…え?お、おい!」


通話終了。


なんだか、怒られたんだが…?

なぜ?


はてなマークだらけの頭でスマホを見つめていると…


ドンドンドン…ッ! 

「どわ…っ!?」

不意に叩かれるドアの音。


「潤!潤!!大丈夫!?」

ドアの向こうから聞き覚えのある声。

この声の主は…
紛れもなく今現在俺と会話していた…


俺はドアに近づき、ゆっくりと扉を開く。


「潤!!大丈夫か!?………え?翔…さん…?」

なだれ込むように入ってきた人物はやはりニノ。
そして俺を見るなり潤くんと同じような反応をした。


「ニノ…、相葉くんも。」

「翔さん、なんでここに??」

「お前なぁ、人の話を最後までちゃんと聞けって…。」


さっきは一方的に電話を切られたが、お互いに事情を説明し合い、、

「翔さん!オレは信じてたよ!」
 
裏切り者扱いは見事払拭され、今に至る。



「それで、ソレを?」

潤くんとニノのやり取りを知らない俺はニノが買い込んできたあれこれを託される。

「助かった。
俺、なんも持ってこなくてどうしようかと思ってたとこなんだ。
こんな状態の潤くんを一人にして外出することもできなくてさ。」

「翔さんがいて安心した。
誰かがそばにいてくれる、ううん…、翔さんがそばにいてくれることが今の潤にとって一番の薬だから。」

「よかったね、カズ。」

「うん、早く元気になれよ…潤。」

余程潤くんのことが心配で仕方なかったんだろう。
涙目のニノが潤くんの髪をそっと撫で、そんなニノの肩に相葉くんがポンと手を置くと安心したように微笑んだ。



「翔さん、潤のことよろしくね。」

「おう、まかせとけ。」


二人が帰って、再びこの部屋には少し荒い呼吸を繰り返す潤くんの息遣いだけが聞こえてる。

「辛いよね…、頑張ってな…。」

何度も汗を拭いた。

「潤くん…。」

何度も髪を撫でた。

「俺がそばにいるから…。」

何度も頬に触れた。



チリン……

枕元に置いたお守り。
倒れ込んだ時に潤くんの手の中に握りしめられていたお守り。

俺は今日彼はここにいないかもと思ってここに来た。
けれど彼はここにいた。
きっと俺はこの鈴の音に導かれるようにここに来たんだ。

あの日の会話、君の言葉、俺も全部覚えてる。
潤くん、君も覚えてくれていて、
君も俺を呼んでくれていたんだね。


「どうか…、どうか潤くんが早く元気になりますように。」

俺はお守りと共に潤くんの手を握りしめた。


…ふと、握り返されるような感触がして俺は祈るように下を向いていた顔を上げる。


「じゅ…ん…くん?」

薄く開かれるまぶたに漆黒の瞳が奥に見えた。


「潤くん!」

覆い被さるほどの勢いで覗き込むと、その目に俺が滲んで映る。


「しょ…さ…、」

乾いた唇に掠れた声で俺を呼ぶ。

「しょお…さ…、しょお、さん…っ、」

何度も何度も。
その存在を確かめるように。


「俺、いるよ!ここにいる!」

「翔さん…、しょお…」

俺に向けて縋るように見つめてくる潤む瞳。
まるでさらってくれと言わんばかりに伸ばされた手。


「…っ、潤…!」

堪らず俺はその手を引き寄せ、未だ熱い彼の身体を抱きしめていた。



つづく