翔side



「潤くん、元気にしてるかな…。」


良くも悪くも本日は休み。
そして、ものすごく天気がいい。

潤くんの心も少しはこの空のように晴れていてくれているだろうか。



「連絡…してみようかな…。」

どうしようか…
あんなに泣いていたんだ。
誰かに助けを求めたいほどに悲しい思いをして。
そう簡単に元気になんてなれるか?


んー…、でも、

「気になるしなぁ…。」


スマホ片手に部屋の中を無意味にウロついて、かれこれ10分が経とうとしている。

もしもこの場にニノがいたら「気になるならさっさとLINEでも電話でもしたらいいのに」とサラッと言うのだろう。
 

「そりゃさ、ニノは潤くんとは親友だしさ…。」

別に実際に言われた訳でもないのに言い訳のような言葉が口から零れた。


俺って、潤くんにとってどういう存在なんだろ…。




「よし!悩んでてもしょうがない!」

結局悩んだ挙句、一旦スマホは手放しスマホホルダーに立て掛ける。

「それよりもまずはこの部屋をなんとかしよう……。」

昨日潤くんをニノに託した原因の一つである散らかりまくった部屋。
次の休みにまとめて片付ければいいやと思って散らかしたままだった。

こんな部屋に潤くんを連れてきたら幻滅されること間違いなしだ。
潤くんの前では少しでもカッコイイ俺でいたいのにこれではマイナスポイントに加算されてしまう。

もちろんいつもこんなじゃないぞ!と言いたいとこだが、自分のこととなるといい加減になってしまうことも多々ある。

一人暮らしだし…?
恋人もいないし…?
しょうがない、ですよね…。

そしてまた自分に言い訳をする。






~♪♪

ブーンと掃除機をかけているとその雑音の中にスマホの着信音が混ざって聞こえてきた。


「ん?電話か?」


掃除機を止めてスマホの画面を覗き込むと、

そこには…

「え!潤く…っ!?」


潤くんからの着信!?
しかもLINEではなくて、電話!!?

いつもメッセージのやり取りばかりで潤くんからの着信にプチパニックを起こす。
鳴り止む前にどんどん出ればいいものをわたわたとしてしまう。


カシャン!!


「やべっ!」

どんだけ慌てんだ。
スマホが手につかずに滑らせて床に落としてしまう始末。

画面割れてないだろな!?

『潤くん』の名前がくっきりと確認できて、今度こそ通話をタップした。



「も、もしもし!?」

「…あ、翔さん…ですか?」

「うん!俺!翔です!櫻井翔です!」

「はい、声でわかりました。」

俺も。
潤くんの声は、電話越しでもよくわかる。


「今大丈夫ですか?」

「も、もちろん、大丈夫!」

「あの、昨日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。」

「ううん、全然…」

「メッセージにしようか迷ったんですけど、どうしてもちゃんと伝えたくて。
本当は会って直接言いたい所なんですけど今日はお店もお休みですし、電話しちゃいました。
お休みなのに、突然すみません。」

とても穏やかで落ち着いた口調だ。

俺のさっきまでの不安が声を聞いただけで解消されていく。



「元気そうでよかった。」

「…はい。
思ったより立ち直りが早くて自分でも引いてます。」

「ハハッ!引くって…」

「翔さんのお陰です。
翔さんが僕を救ってくれたんです。
ありがとうなんて言葉では言い尽くせないほど翔さんには感謝しています。
翔さん…、ほんとに、ありがと…」

俺の名を呼ぶ声が揺らいでグスッと鼻をすする音がした。

「潤くん…」

そんな…、泣かないでよ…。
俺、泣いて感謝されるほど大層なことしてないって…。
ただただ潤くんの笑顔を取り戻したかっただけなんだ。



「おーい、オレもいるんだけどー?」

「カズにも感謝してるってば!
さっきからいっぱい言ってるじゃん。」

「随分と感謝の熱量が違うみたいだから。」

「そんなことないよ!」

電話口の向こうからニノの声もする。

あ、まだニノのとこにいるんだ。


「ゆっくり帰ったらいいよ。
天気もいいし、散歩もいいかも。気も晴れる。」

「実はこれからカズとカフェ巡りに…」

「ニノと?」

「カズが行かないか?って。」

「へー…」

前に俺が新作メニュー考えたいからって誘った時にはめんどくさいって断ったくせに。
アイツなりに潤くんを元気づけようとしてるんだな…。潤くんには甘々な天邪鬼め。



「あ、の…」

「ん?」

「翔さんも行きませんか?
カフェ巡り、よかったら一緒に…」

「え?」

「あ!お休みの日にはお休みしたいですよね!
休みの日にまで職場の人間と会うなんて休んだ気がしないっ…」

「いいの?行っても?」

「え、あ…、はい、翔さんさえよければ…」

「行く!絶対行く!ソッコーで行けます!秒で出れます!」

「あ!待って!待ち合わせ場所を!」

「翔さん、焦りすぎだよ〜」

俺があまりにも即答だったから、慌てて集合時間と場所をニノと相談してくれてる。



通話を切って、見渡せば掛けかけの掃除機と片付ける前よりも散らかってるテーブルの上とまだまだ捨てようと思えば捨てれる雑誌と…、その他諸々…。

「いいよね、また次の休みにまとめてやれば。」

だって潤くんからの初のお誘いだもん。


『潤くん』
俺の最優先事項。
君以外に優先することなど何一つない。




つづく