翔side



松本がピンチだという一報を受け、俺は二宮と廊下を走り抜けていく。

「どこだ!?」

「多分部室の、方…?」

「はぁ?場所知らねぇのかよ!
てか、なんで一人で行かせたんだよ!
お前いつも松本の近くにいるんだろ?」

「潤くんが一人で行くって言うから…。」

「だからって…」

「それにオレが助けるより櫻井先輩に助けてもらった方が潤くんも嬉しいかなぁって。
先輩だって潤くんと話すチャンスでしょ。」

「バカ!変な気ぃ回すなよ!」

「潤くんの為でもあるんです。
だって先輩、全然潤くんに告ってくれないじゃないですか。
せっかく協力してるのに。」

「それはだなっ、心の準備とかあんだろ!色々と!」

「突発的なハプニングならきっと動いてくれると思ってました。
だから真っ先に櫻井先輩とこに来ました。
なので、潤くんの救出、よろしくお願いします!」

「お前…、マジなのか作戦なのかわかんねぇの勘弁だわ…。」

助けてと言ってきた彼の意思は本心だろう。
慌ててもいたし。
でもなんだかんだ俺を動かそうと考えを練っているのはコイツのお節介なのか性格なのか…。
 
どちらにしても『潤くんのために』って気持ちだけはよく伝わってきて、あんまり責められない…。
行動になかなか移さない俺も悪いし。



「あ!あれ!」

背の高い女子達3人に取り囲まれてる彼が見えた。

「松本…!?」

「ちょっとストップ。」

「は?な…っ!?」

そのままその集団の中に飛び込んでいこうとしたらその手前側でぐいっと引き止められた。

「二宮、何して…」

「なんか話してる。」

「こんなことしてる場合じゃ…」

「しーっっ!静かに。」

キッと強い目線で止められ、俺も仕方なしに黙って様子を伺って見る。




「なんでしょうか?
友達を置いてきてしまってるので早く戻りたいんですけど。」 

「呼び出しに乗ってきたのはアンタでしょ。
一年には拒否権も発言権もないの。
とりあえず黙っててくれる?」

はー、女の圧って怖ぇーな…
女のイザコザって拗れるわけだ。


「ねぇ、君さぁ、二年の櫻井くんが好きなんだって?
堂々と告ってたらしいけど、それってどうなの?
男のくせに男に告白とかマジありえないですけど。
うちらの後輩の子の方がよっぽどお似合いだと思うけど。
ね、この子、櫻井くんのことが好きなんだって。
アンタみたいなただのファンが周りをウロチョロしてるとこの子にも目障りだし、櫻井くんも迷惑してるの気づかない?」

は?俺、迷惑だなんてそこまで言ってねーし!
確かにウザがってるような態度とってたけど、それは過去のことで、今はすっげー反省して…


「わ、私だって櫻井くんのこと好きなの!
君は男の子でしょ?
櫻井くんも男の子、ねぇ、それっておかしいよね?普通じゃないよね?そのくらいわかるよね?諦めてくれるよね?」

あの子、確か…隣のクラスの…
つか、名前知らんのだが…。


いや、そんな事どーでもいい。
松本一人に寄ってたかって何勝手なことばっか言いやがって…。

責め立てられ、徐々に俯いていく松本の顔は見えない。
でも、もし、アイツが泣いていたら?
こんなのただのいじめじゃんか。

そう思うとなんだか腹立ってきた!


もう我慢できねぇ!



「おい!何してんだ!」
 
堪らず飛び出していき、松本のそばに駆け寄る。

「多勢に無勢、卑怯だぞ!」

「せ、んぱい…?どして…?」

「すまん、遅くなった。」

こちらを向く松本の目から、まだ涙は零れていなかった。
いつも以上に潤んではいた気はするが、安心した。


「櫻井くん、後輩の態度を改めさせるのは先輩の役目。
その子は先輩へ対して態度が横柄じゃない?
あなたに対しても図々しく何度も言い寄ってるみたいだし。
私達も可愛い後輩の為なのよ。」

「櫻井くん、どうしてそんな子を庇うの?
男なのに告白されて迷惑してたんでしょ?」

三年の先輩の後ろ盾があるからか、隣のクラスの女子も強気に出てくる。
 

「迷惑なんてしてない。」

「でもっ、男の子に言い寄られるなんて…
嫌でしょ?」

「コイツのことは中学からのことだ。
だから別に嫌とかそういうのはもうない。
ていうか、これは俺とコイツの問題だ。
あんたに関係ある?」

「だって、私、櫻井くんのことが好きで、、
え…、まさか、櫻井くんもそっち…なの?」

「そっちってなんだよ。」

「ゲイなのね!
だから、この子を…やだ!気持ち悪い!」 

「はぁ?気持ち悪いって、、」

女三人でギャーギャー騒ぎ出したぞ。

めんどくせー…

最近まで俺も男同士がとか気にしてたことだけどさ、それってただの偏見だよな。
そういうのを部外者が騒ぐ方が恥ずかしくね?
人を真剣に好きになる気持ちは誰にも馬鹿にする権利はないんだ。
だからお前らにつべこべ言われる筋合いもない!



「うるせ…」

「うるっさいな!!」


え…?

まつもと…くん…?

君の声か?めっちゃデカかったけど?


「こっちとかあっちとかうるさいの!
僕が櫻井先輩を好きなのってそんなに悪いこと?
困っていた時に助けてくれた人に一目惚れするのってダメなこと?
男だって男の人を素敵だなって思うよ!
好きだって気持ちにだってなるよ!
僕に文句があるんならそれでもいい。
だけど…、だけど!
櫻井先輩にまでそんな事言うな!!」

「…」


一目惚れ……?初耳のような…?


それより、、
顔立ちが整ってる奴が怒ると美人が増すっていうか…迫力ハンパねぇ。

女子達、ビビっちゃってね?

俺、松本のこと守りに来たのに反対に守られてない?
ダメじゃん!助けに来たの、俺!


「…ほんっと、生意気。
こんな奴らに関わるのもうやめよ。」

負けを認めたのか諦めたのか大人しく帰るのかと思いきや、、

「わっ!!」

すれ違いざま松本を突き飛ばし、そのままの勢いで松本は砂の上に転んでしまった。


「松本!
てめ、何してっ!おい!待て!謝れ!」

「いいよ、先輩。」

「でも…」

「潤くん!ごめん!オレも早く助けに入れば…
タオル、濡らしてくる!」

慌てて二宮も駆け寄ってくるけど顔にまで砂のかかった松本を見て、すぐさま水道に走っていった。

「払えばいいってー…、あー、行っちゃった…。」

尻もちを付きながら制服は汚れ、手のひらからは血が滲んでいた。
こんなになってるのに二宮に気を使って…、気にしないで、なんて…。


「お前は…、自分の心配しろよ…。」

「平気です。このくらい。」

「怪我のことだけじゃない、酷い事も、言われて…。」

赤くなっている松本の手のひらを両手でそっと包み込んだ。


「慣れてます。
中学の時に櫻井先輩に告白した時から。
そういう目で見られるのは覚悟の上で告白してますし、懲りずに言い続けてますし。
だから、僕は平気です。」

「松本…」

俺を見つめ、薄く笑みを浮かべる。
俺の前だからって…我慢すんなよ…。


でも…

「それよりも櫻井先輩に言われたことが僕は悔しい…。」

俺の事には胸を痛めて顔を歪ませる。

自分は何度も俺に断られようが笑顔でいたくせに。



「泣くなよ…。」

俺の腕の中で微かに震えてる。

「お前には笑ってて欲しいんだよ。」

だから、その震えがなくなるよう、俺は強く抱きしめる。


「お前の笑ってる顔、すっげー好きだから…。」

自分でも信じられないくらい自然と声に出てた。




つづく




よかったー!今日もなんとか書けました〜😆