翔side
「おっはよ、翔くん。」
「あ、おはよ。」
教室へ入るなり肩をポンと叩かれる。
「今回も派手に告白されてたね。」
「智くん、見てたの?」
「うん、目立ってたから。」
「はぁぁ…、だよね…。」
朝だし、正門のとこだし、たくさん人通ってたし、何人の人に目撃されたことやら…。
席に着くなりカバンを開く。
中には…あの封筒が…。
もー、頭抱えるわ。
「彼、凄いね。」
「なにが。」
「翔くんのこと本気で好きなんだなぁって。」
「智くんまで…、勘弁してよ…。」
智くんとは唯一中学からずっと同じクラス。
5年間もずっとってそれこそ凄くね?
元々物静かな人だったけど、さすがにこうも何年も連続で同じクラスでいれば俺ともこうして気軽に話せる仲になった。
「翔ちゃ〜ん。」
そしてもう一人。
「ね、ね!また告られてたね!」
「もーいーわ。うぜぇ。」
「なんでぇ?
あんな可愛いコちゃんに告白されるなんて超うらやまなんですけど〜。」
智くんとは正反対にウザ絡みをしてくるコイツは小学校からの腐れ縁で家も近所の雅紀。
「可愛い…って…。
お前、目ぇ悪いんじゃねぇの?
アイツは男だぞ。」
「男の子だって可愛いコは可愛いじゃん!
翔ちゃん頭固いんだから〜。
時代はジェンダーレスだよ!」
「また…、、お前はただジェンダーレスって言葉を使いたいだけだろ。
意味わかってんのかよ。」
「てへ、バレた?
でもさぁ、偏見あんの?
好かれるのに男でも女でも嬉しいもんでしょ。」
「ただ慕うってことじゃないんだよ、アイツの好きは。
マジだから厄介なんだ。」
「翔ちゃんて地味にモテるもんね。」
「地味って言うな。」
「翔ちゃんは知らないかもしれないけど女バスの先輩とかに人気あんだよ?
ほら、体育館からグラウンド見えるし。
こないだも櫻井くんカワイー!て騒いでた。」
「んな話聞いた事ねーし。
てか言うんなら直接わかるように言ってこい。」
影で言われてたってモテてる自覚なんて持てる訳ないっつーの。
「翔ちゃんてチャラくてヤンチャなくせに実は優男から、知らず知らずのうちに惚れさせちゃってるんじゃないの?
実は隠れファンがわんさかいるかもしれないよ。」
「チャラいて…」
「ほら、面倒見良いし、ノリもいいし。」
「それは妹も弟もいるからなぁ…、長男気質ってやつ?
そんなこと言うなら雅紀だって似たようなもんだろ。」
てか、ここで褒め合って何になる。
「でもさ、よくよく見ると翔くんてかなりのイケメンかも。
綺麗なくっきり二重でぷるんとした唇で…」
「ちょ、ちょ、、智くんまでそーゆー目で見るのやめてよ。」
「当たり前にあると気づかないってこともあるんだよ。
彼…、松本クンだっけ?
中学から翔くんに告白する姿見てきてるけど、高校からまた随分と大人っぽくなったよね。」
「…まぁ、確かに…?」
告白パターンはまっったく変わらないけども。
ぷくっとしていた頬もいつの間にかシャープになり、幼さが抜けてだんだんと垢抜けてきてるような…
いや、実はアイツ、あんま認めたくはないけど結構な美男子だったりして……?
「んなわけねーよな!」
「いった!なにすんの、いきなり!」
バシンと邪念を振り払うかのように雅紀の背中をぶっ叩いた。
あぶねぇ…。
ちょっとだけアイツのことで頭ん中が占領されかけたわ。
「そこらのミーハーな女子と松本くんを一緒にしちゃダメだって。
翔くんのこと諦めないで何年も追ったりするくらい熱心な子なんだし。
それに…」
「…それに?」
「追われなくなったら案外寂しいかもよ。」
「え…!?ま、まさかぁ…」
「想像したことある?
彼がもしも自分じゃなく他の人を好きになったら?」
「…」
「自分ではない別の人に告白したら?
もしくは、彼がされたりしたら?」
「…」
「ただ男の子だからって理由じゃなく、断るなら松本くんのことをもっと知って見てあげてからでもいいんじゃない?
世界は広いよ。
時代はジェンダーレスなんだから。」
智くんまでそんなことを……。
「なんか俺…、諭されてる?」
「さとしだけに?」
「え…、、さむ…」
「くふふっ、おおちゃん、いいこと言う〜!」
「サンキュー、相葉ちゃん!」
「いやいや、なんのハイタッチ…」
意気投合してハグしてるの意味わかんないのよ。
つか、、
考えたこと、なかった…。
アイツが俺以外を?好きになる??
毎年当たり前にラブレターを渡してきて、
断ったとこで全然話聞いてなくて、
振り向いた時の笑顔はずっと変わらなくて。
櫻井先輩へと書かれた封筒はもうすでに5通。
アイツは俺の事よく知ってる。よく見てる。
学年も違えば部活も違う。
接点はほとんどないのに『俺の好きなとこ』と題して便箋に綴られるびっしりな文字列。
俺はアイツのこと、なんも知らねぇ。
基本情報しか知らねぇ。
なぜアイツは俺の事をそんなにも好きになってくれたのだろう……。
きっかけはほんの些細な智くんからの助言。
だけど、なんか少しだけ、
アイツのこと、知りたくなってきた。
松本潤…。
俺の中ではじめて、ちょっとだけ気になる存在に変わった瞬間だった。
つづく