潤side
「ニノ!ニノってば!」
どんどんと僕の腕を引っ張って先を急ぐニノを何度も呼び止めた。
だけど僕の声なんか聞いてはくれずに駅構内へと入っていく。
「よし、ここまで来れば間に合うね。
で?なに?」
ニノがやっと止まってくれたのは改札前。
あとはここを通ってホームに行き、電車が来るのを待つだけだ。
「なに…じゃなくて…、
櫻井さんにあんな言い方しなくても…。
それに櫻井さんの同期の…相葉さん…?あの人にもきちんと挨拶もしてなかった…」
「挨拶なんか悠長にしてる時間あった?
しかもあの調子のいい人の誘い、潤くん全然断れてなかったじゃん。」
「それは…」
「あの人達が早く仕事を終わってるってことは潤くんのお父さんも帰りが早いんじゃないの?
まぁ、まだ電車に余裕はあるにはあったけどさ…、ギリギリよりいいでしょ。」
「それは…そうだけど…」
ニノは僕の為に話を強引に終わらせたんだ。
わかってはいるよ、あれがニノなりの優しさだということも。
でも、櫻井さんには今日もまた何も言えなかった……。
「あれが櫻井さんね。
潤くんはああいう顔がタイプなんだ。」
ホームのベンチに座りながら電車を待つ。
「普通だね。」
「え!?
普通ってなに!」
「普通にイケメンじゃん。」
「ね♡そうでしょ?」
「潤くんが普通に面食いだということはわかった。
でもおかしいなぁ?
オレだってあの人に負けてないと思うんだけどなぁ…。」
「普通普通って…。
ニノはどちらかと言えばカッコイイよりカワイイタイプだから…。」
「潤くんにカワイイとか言われたくないんですけどー。」
「なんで?」
「言ったでしょ?好きな人に可愛いだなんて思われたら男としてどうなの。」
「だって…」
うん、普通にニノは可愛いよ?
僕がシャンとしてないからか、僕といるとしっかり者のニノになっちゃうからそういう姿は隠れてしまうけど…。
知ってるもん、ニノが女の子の間であざと仕草が可愛いって言われていること。
「誰に何言われたかは知らないけど…」
う…、見透かされてる。
「オレが興味あるのは潤くんだけだから。」
「ニノ…」
「この前も言ったはずだけど?
オレの部屋で。ベッドの上で。
潤くんを羽交い締めして動けなくさせて…」
「ストップ。
その言い方は誤解される。」
「誰に?櫻井さんに?言ってみる?
ニノに押し倒されて説教されたから、すべてを話しますって。」
「……またそうやって、意地悪言うんだから。」
ニノと話をした。
あのシチュエーションで。
まさに、身動きのとれないあの状況で。
「ニノ!!?」
僕よりも身体が小さいと思っていたニノは下から見上げるとそんなに小さくないことがよくわかった。
「高嶺の花…」
「え…?」
「高校の時から高貴で美しい…潤くんは高嶺の花だった。
その潤くんをモノにできる日が来るなんて…。」
「え、ニノ…何を言ってるの?
冗談やめてよ…、どいてって…」
身を起こそうとするが、両腕を掴まれ顔の横に押し付けられた。
ほんとに、これじゃ…
「やめ…っ、」
「潤くんはロボットなんだもん。
気持ちのないロボット。
だから、潤くんの気持ちなんて知らない。」
「に…」
初めて聞く親友の冷たい言葉。
「自分の気持ちよりもお父さんの体裁。
お父さんの言いなり、思い通り。
そんなの意思のないロボットと同じだよ。」
「…ちが…う」
僕は櫻井さんが好き。
ちゃんと気持ちはある。
血の通った熱い想いが。
「オレが抱かせてくれなかったら親友やめるって言ったら?
潤くんは理解のある親友のことを切れる?
どうせ拒否できないんでしょ?
意思、ないんだもんね。」
冷たい…冷たい…ニノの瞳…。
怖いんじゃない…、とても悲しい…。
「いつまでそうしてんの?
もうハタチでしょ?大人でしょ?
自分の気持ちくらい自分で伝えなよ。
傷つくのが怖くてただ泣くくらいなら、思い切り傷ついて泣く方がよっぽどいい。
思い切り傷を負って泣いたら、いつでもオレが受け止めてやるから。
潤くんをひとりで泣かせたりしないから。
だから…潤くん、
自分の気持ち、大切にしてよ…。」
ニノの厳しい言葉の中には優しさが満ちていた。
「…にのぉ…、、」
「えへへ、ごめんごめん、泣かないの〜。」
突き放されたと思ったら優しく諭されてツンデレもいいとこ。
大切な親友の真剣で怖い顔から、いつもの可愛らしい笑顔に安心してまた涙腺が緩む。
なんだよ、こんなの…聞いてないよ…。
「この際ハッキリ言っておく。
潤くんが櫻井さんが好きでもオレは潤くんが好き。
好き…だけど、、
潤くんのことほっとけない…、今はそんな好き…って感じかな。
もうさ、櫻井さんの話してる潤くんのデレ顔見てたら応援するしかなくなってくるでしょ。」
ニノは隣に移動するとヨイショっと僕の腕を引っ張って起こしてくれた。
「頑張って、潤くん。
櫻井さんが潤くんのことが本当に好きなら、お父さんのことを知ったからって潤くんのことを拒絶することなんてないはずだ。
それで尻込みするような奴なら、潤くんはオレんとこおいで。
いつでも抱いてあげる。」
「もぉ…言い方…。」
応援するって言ってみたり、おいでと言ったり…。
ニノってば天邪鬼だ。
それでやっぱり同級生だとは思えません…。
どれだけ大人なのさ。
「うん、僕…話す…。
ちゃんと自分の想いも父さんのことも…。
櫻井さんには隠し事はしたくないし、自分の気持ちにも嘘をつきたくないから。」
また櫻井さんに時間を作ってもらおう。
朝の慌ただしい時じゃなく、またゆっくり話せるときを。
「よーし!て、ことで…
水曜日、講義早く終わったら街中のCDショップまで付き合ってくれない?
潤くんとデートしたいし♡」
「え?
話、急に変わりすぎじゃない?」
僕の真面目トーンはどこへ!?
すぐにこの生活と自分の性格を変えることはできないだろう。
僕にとって父さんは昔から絶対的な人。
それが当たり前だと決めつけてきていた。
でも、今の僕には櫻井さんというもっと大切な人ができた。
櫻井さんに今度こそ想いを伝えることができたら、弱い自分を変えれるような気がした。