潤side



明日から櫻井さんと一緒に行ける。


そう思ったらワクワクして早くに目が覚めてしまった。
朝の弱い僕が眠い素振りも見せず、いつも以上に完璧に起きてくるから母さんに熱でもあるの?なんて心配されたっけ…。
今日だけのことじゃないからいつまでも早起きができるかはわからないけど、それでもただ見ていただけの昨日と櫻井さん公認で一緒に行けるのとでは朝のテンションがまるで違う。
自然と鼻歌だって歌ってしまうくらいだ…。




待ち合わせをしてる訳じゃないけど、僕はいつものホームではなく改札の前で櫻井さんを待つ。


まだ信じられないな…。
あなたをこんな風に待っているなんて。
 

ただ一緒に電車に乗って通学するだけでこんなにワクワクしていたら、もしもプライベートで一緒に出かけるなんてことになったら…
どうなっちゃうんだ?僕は。

ワクワク通り越してドキドキで前の日から眠れなくなる。
いやいや、それはダメだよ。
寝不足の顔ほどひどいもんはない。
そんな顔で櫻井さんと会うなんて…、、

…て、
「誘われた訳でもないのに、何考えてんだろ…。」

もう会う前から頭の中はあなたでいっぱいでした…。





┄┄┄┄



程なくして櫻井さんと合流し、いつもと変わらないホームに向かう。

あの自販機の影…
櫻井さんを盗み見ていた壁…

今は堂々と彼の顔を見られる幸せ。

正面からまじまじとは見れないけど、横顔だって今日もカッコイイです♡




「そういえば、松本くんのLINEのアイコンなんだけどさ、」

「あ、アイコンですか?」

「あれってケーキだよね?モンブラン?」

「…は、はい…。」

「好きなの?」

「…大好物です…。」

いつかはバレるとは思ってたけど、改めて指摘されるとやっぱ恥ずかしいな…。


「へぇ〜、モンブラン好きなんだぁ。」

「あ、あれは、実は…、自分で作ったもので……。」

「え!?自作!マジ?
すごいな、ケーキ作れんの!?」

「こんなのアイコンにするの恥ずかしいって言ったんだけど、せっかく上手くできたんだしニノが可愛いからそれにしろってしつこく言われて…。
あ、ニノって友達なんですけど。
それで、たまたま…今はそれに…」

「…友達が?」

「はい。」

「可愛いって?」

「…?…はい。」

「そのニノって子、男?」

「…そうですけど?」


え?僕、なんか変なこと言った?

心なしか櫻井さんの眉間にシワが寄る。
むーっと唇を尖らせて、何かを考えているかのようにも見えた。



「すみません…、何か失礼なこと…」

「あ!ううん!なんでもない!こっちのこと!」

「ほんと…ですか?」

初日から印象悪くしたのかな…。
ケーキのアイコンなんて男のくせに気持ち悪いよね…。
もう!ニノが可愛いとか変なこと言うから!
LINE交換する前に変えておけばよかった。


「ねぇ!その作ったケーキの画像ある?
見たいなぁ…。」

「あるにはありますけど、大きな画で見ると形にはなってるけど下手ですよ。」

「俺からしたら作ろうと思うだけで神だよ。
ね、見せて?」

「ちょっと待ってくださいね。」

ドアを背にして、トートバッグの中からスマホを取り出す。

画像をスクロールして、その画を開くと櫻井さんの方にスマホを傾けた。


「見れます?」

「これかぁー…、」

「…っ、」

グッと顔を近づけてきた櫻井さんとの距離が一気に縮まって、思わず後ずさりそうになりバランスを崩す。
と、思ったけど大丈夫だった。

なぜなら…
僕の背中側にさりげなく櫻井さんの腕がドアに向けて伸ばされていて不安定な電車の中、僕が倒れないようにと支えにしてくれていたからだ。


…でも!
倒れないようにしてるのはいいけど、この距離は近い!
顔を背けるのも失礼だし…、
ていうか、こんな至近距離で櫻井さんの顔を拝見できるなんて逆にありがたいっていうか…。

うわぁぁぁ…!二重の幅が広い!くっきり!
綺麗な鼻筋にふっくらした唇とかぷるぷるだし!
それでいて、なんかいい匂いがする…。
香水ほど濃くはないけど、爽やかな心地いい香り…。

もー、ヤバいっ。
見てる目線おかしいし、匂い嗅いだりとか。
こんな風に五感研ぎ澄ましてる僕って変な奴って思われない!?
ひとりでパニック状態になってしまってて、櫻井さんに心の声が届いてしまったらどうしよう!!

涼しい顔の櫻井さんと額に汗が滲む僕。
対照的だ。


「ありがと。
やっぱ凄いわ、尊敬する。
俺、ぜってーこんなんできない。」

「…たまたまです。ほんとに。
いつも作るわけではないので…。」

スマホから顔を上げた櫻井さんとまた少し距離ができて、僕はほっとしてスマホをバッグの中にしまった。



「もう駅着いちゃうなぁ…。」

10分なんてあっという間。
もうすぐ僕が降りる駅に着いてしまう。


「あの駅のベンチ見るとあの日のこと今でも思い出します。
櫻井さんに助けてもらえて本当によかったです。」

見ず知らずの女子高生に嫉妬して、メンタルやられてて、フラフラだった上に巻き込まれた満員電車。
苦しくて限界だった僕を助けてくれた、まさに命の恩人のような人がいつも影から見ていたあなただったと知ったとき、驚きと共に泣きそうになったことは僕の中だけの秘密だけど。


「ここで君を助けなかったら、俺、一生後悔してた。」

「もう満員電車は懲り懲りです…。
完全にトラウマになってしまってて…怖い…。」

あんな風に人混みの中で体調悪くなったの初めてだったから、余計に…。
気を失ってたら…と思うと、思い出しただけで震えてくる。


「大丈夫!俺が一緒に乗ってるんだから!
ちゃんと松本くんをガードして守ってあげる。」


ふわり。
 
櫻井さんの手のひらが僕の頭にポンと触れた。


「その時が来たら…、
よ、よろしくお願いします。」

「任せなさい!」


大人の包容力。
スーツの彼にスニーカーの僕はやっぱり子供なのかも…。
嬉しいけど、距離を感じて。

ちょっとだけでもいい…、
もう少しだけ櫻井さんに近づきたいな…。


「行ってらっしゃい!」

電車を降りた僕を見送ってくれるあなたが僕の恋人だったらいいのにと、夢みたいなこと考えちゃうのも僕がまだ現実社会の厳しさを知らない子供だから…なんだろな。