潤side
「えっ!岡田そんな事言ってたの!?」
櫻井くんの家に向かいながら、岡田くんとの一部始終を説明した。
「まったく…強引なやつだな。」
「…僕も同じこと思った。」
「松本くんの都合も考えないで…。」
「あ!それはいいの、暇してたのはホントだし。
でも…、」
「でも?」
「…。」
岡田くん、櫻井くんが来てって言ってるって言ったじゃん。
岡田くんが勝手にそう言っただけでそうじゃなかっただなんて…、ノコノコ出てきた自分が恥ずかしい。
「どうしたの?」
「先に櫻井くんにも確認すればよかったのに、岡田くんの言われるまま来ちゃうなんて…。
櫻井くんにしてみたらいきなり押しかけて来たみたいで迷惑…」
「迷惑なんかじゃないよ!
松本くんが来てくれて俺も嬉しい!」
すごい勢いで否定された。
しかも、嬉しいって…。
「…ほんと?」
「うん!もちろん!
あ、でも俺は松本くんの課題目当てじゃないからね。
久しぶりに顔見たかったし…、早く会って話もしたかったし…。」
「そ、そう…。
め、迷惑じゃないなら、よかった。」
「ありがとう、わざわざ来てくれて。」
「ううん!こちらこそ!
お世話になります…。」
はぁぁぁ…、もう顔が、いや身体中が熱い。
ただ単に照りつける太陽だけのせいじゃなくて。
櫻井くんからそんな溶けるような言葉を聞けるとは…。
そんなこと言われた誤解しちゃうよ。
まるで櫻井くんが僕に会いたかったみたいじゃん。
そう都合のいいように捉えてしまう…。
こら!ダメだってば!
櫻井くんは優しいんだから、僕に気を使わせないためにそう言ってくれただけだ。
勘違いも甚だしい。
「ここだよ。」
悶々と考えながら歩いていたらいつの間にか櫻井くんの家の前に着いていたらしい。
「…え、ここ?」
目の前には立派なお家が……
櫻井くんてもしや相当なお坊ちゃん!?
お互いに親の仕事の話なんてしたことはないけど、極々普通の一般家庭のうちとは明らかに違う気がする。
家の前に門がある。
達筆な表札がある。
「どうぞ、上がって?」
なにより玄関が広い!
「お、お邪魔します…。」
初めて彼氏の家にお邪魔するくらいの緊張感。
経験はないからすべては想像だけど、ただ友達の家に遊びに来ましたーという気軽さでないことだけは確か。
だけど、無造作に脱ぎ捨てられた汚れきったスニーカー…浮いてるなぁ。
絶対岡田くんのだ。
その隣に僕のスニーカーも並べて、櫻井くんの後ろから部屋までついていく。
「ただいまー、…あれ?」
ガチャとドアを開けると櫻井くんが不意に立ち止まった。
「櫻井くん?」
「…見てよ。」
「…?」
部屋に通してくれたその先のベッドの上、岡田くんが大の字に寝転がって…
しかも寝てる…。
「やってないじゃん。
何しに来たんだよ、コイツは。」
エアコンの効いた部屋は外とは違って快適で広々としたベッドでのびのびとくつろいでいたら、それは眠たくなるのも当然だ。
「いつもこうなんだよ…。」
「すっかり気を許した大型犬みたいだね。
どうしよう…起こす?」
呼び出したのは岡田くんだし、せっかく来たんだからちゃんと勉強しないと…
「岡田くん、岡田くんっ…」
声を掛けたくらいじゃ起きなさそう。
揺すってみようか…と手を伸ばす。
「岡田く…」
「いいよ、先に二人でやってよう。
あ、松本くんは終わってたんだよね?
呼び出しといて悪いけど休憩しながらくつろいでて。
自由に本とか読んでていいから。」
その手を櫻井くんに捕まえられて、起こすのを止められた。
「え、でも…」
「そのうち起きるだろ。」
「…うん、じゃあ…」
岡田くんの親友の櫻井くんに言われたらそうするしかない。
多分声を掛けたくらいでそう簡単に起きないってわかってるんだと自分を納得させた。
まだ時間もあるし、少し経ったら起こしてあげればいいよね。
ローテーブルで向かい合わせに座って、櫻井くんは残りの課題に取り組む。
櫻井くんは成績優秀者だし、やり出したら進めるのは早い。
最終日まで課題が残ってしまっていたのは単純に時間がなかったからだ。
聞いてみようかな…。
「櫻井くん…。」
「ん?」
「課題、終わっているにはいるんだけど、ちょっとわからないとこがあって…
教えてもらえないかな…。
あ、櫻井くんの方が終わってからで全然いいんだけど!」
「いいよ、どこ?」
櫻井くんはすぐに自分の手を止め、こちら側に来て隣に座った。
「…ここ……。」
急いでテキストを広げると付箋を貼っておいたページを広げる。
わからなくて穴あきのままになっている箇所は実はもっとあって、休み明けに先生に確認しようとしていた。
それを櫻井くんに教えてもらっている奇跡!
神様ー!!
「あー、これ、難しいよね。
俺も時間かかった。」
「それでも解けたんだ。
すごい、さすが櫻井くん。」
「これはこの公式と、あとこれにも当てはめて考えないとダメなんだ。
こんな二重トラップの問題作るなんて狡いよなぁ。」
「見事に引っかかってました…。
あ、でも…ホントだ!
解けた!やったー!」
嬉しくなって思わず勢いよく顔を上げたら、自分の距離感がおかしくなっていたのか思ったより近くに櫻井くんの顔があって…
「…わっ!」
飛び退いた拍子に後ろにひっくり返ってしまう。
天井のライトがスローモーションになったようにゆっくりと見えて、
「危ないっ!!」
櫻井くんの声と共に目をつぶった。
「痛…、」
…くない。
咄嗟に櫻井くんが僕の後頭部を手で支えてくれて守ってくれた。
守ってくれたからぶつけてない…。
床に…頭…、櫻井くんの手が…ある…
痛くない……。
「大丈夫?松本くん。」
「櫻井くん…」
押し倒されているかのような、そんな状態。
自分から倒れておいてその言い方はない。
「松本くん…」
櫻井くんは助けてくれただけなのに…
僕を見下ろす櫻井くんの目がとてつもなく色っぽく見えてしまって、息が止まりそうだ。