翔side



あの日…、松本くんと本屋に行けた日は本当に奇跡のオフで。
それから夏休みが始まるまで部活の休みという休みはほぼなかった。
ほぼ…というのも、部活が休みで先輩のいない時は一年の俺らはここぞとばかりグラウンドを占領して自主練をすると決めていた。
早くレギュラーになって松本くんに試合を見に来て欲しい…、俺は自ら課した目標を早く達成させるためにも自主練に取り組むようにした。

気の合う奴らとそれを約束してるのもあってなかなかゆっくりと放課後出かける日がなくなってしまったというわけ。

この前、強引にでも行っておいてよかった。
松本くんが遠慮して次に…と言ったけど、次なんて待ってたらいつになるかわからなかったよ、これじゃ…。

それでも松本くんに「部活頑張ってね!」と言われたから俄然頑張っちゃう俺なんだけど。
また君と一緒に出かけることも約束してるから…
それも俺の励みになっている。







本の貸し借りをきっかけに連絡を取ることも増えたし、何よりクラスで喋る時の松本くんの表情が明るい。
俺ともだいぶ打ち解けてくれたような気がする。


「松本くんが昨日貸してくれたのもすっごい面白いね!」

「え?もう読んだの!?」

「読み始めたら止まらなくなっちゃったんだ。
すぐに感想言いたかったんだけど、夜遅くに悪いかと思って、今日会えるまで我慢してた。」

LINEで感想を伝えるのも悪くはないけど、松本くんの反応を見ながら話せるほど幸せな時はない。
俺達の好みやツボが同じだからかな?
波長が合うってこういうことを言うんだ…。


「…これからは遅くなっても、いつでも連絡してくれて大丈夫だから。」

「早く寝てるかと思って。」

「僕も読み出したら止まらなくなるタイプなんだ。
結構遅くまで起きてたりするよ。」

「そうなんだぁ。じゃあ、松本くんからもたまには連絡して?」

「でも…、櫻井くん、部活も課題も、本も読んでて忙しいから邪魔になったら悪い…」

「松本くんからの連絡、俺は待ってるんだけどな…。」

「……ごめんね。」

「無理にならいいんだけど…」

そう、松本くん発信からの連絡はほとんどない。
学校の話や課題の確認とかそういったことの返信はあったりするけど、もっとどうでもいいような、例えばこのお菓子美味しいよとかさ、ただおやすみだけでも…何気ないことを気兼ねなく送ってきてくれたらって思うのに。



「無理にじゃないよ!」

俺がわかりやすく拗ねてしまったと思ったのか松本くんは慌てて訂正する。

「ただ、僕の話、つまらないから…。
うまく言葉にして打てないし、途中で何言ってるのか自分でわからなくなったりして…
あと単純にLINEとかしたことがなかったから、送るのに緊張しちゃう。
高校生なのにこんなことで、おかしいよね。」

語尾がどんどん小さくなっていって、気恥ずかしそうに下を向く。


「じゃあ、電話なら大丈夫?緊張しない?」

「で、電話!?」

「こうやって話すのと変わらないよ?
好きなように喋っていいんだから。
あ、気になるようなら先にLINEで連絡してくれるだけでもいいよ。
そしたら、俺からかけるし。」

「櫻井くんは早く寝た方が…
朝練もあるのに。」

「あ、やっぱり松本くん早く寝たいかな?」

「僕よりも櫻井くんが…」

「時々でいいんだ。
思い立った時、…電話してもいいかな?」

「さ、櫻井くんが大丈夫なら、僕の方は全然…」

声が聞きたい…とはさすがに言えはしないけど、これから夏休みが始まると学校でも会えなくなる。
部活で忙しいのは自分の方だし、どこかに遊びに行こうとも誘えはしないけど、せめて電話だけでも繋がりが欲しくなって…、
強引すぎか?
俺、なんでこんなに余裕ないんだろな。



『ねぇ、松本くんて最近垢抜けてない?』
『松本って実は笑うと可愛くね?』

松本くんがクラスに打ち解けて、ほかの人たちとも徐々に話せるようになってきていた頃にはそんなことを囁かれるようになって、

岡田に聞いてみたら…


「お前が松本を変えたんだろ?
クラスで仲良くできるようにさせたかったんじゃないのか?」

「俺は特に…何もしてないよ。」
 
ただ俺は松本くんにひとりでいて欲しくなかったし、俺が彼と話をしたいから普段通り接してきただけ。

あと、松本くんの笑顔が見たいなぁって…。


「お前も松本も似たもん同士だよな。
自分らがどれだけのもんかわかってないの恐ろしいわ。」

「何の話だ?」

「能ある鷹は爪を隠す的な?
あ、櫻井はもう隠しちゃいねぇか。」

「だから何…」

「油断してんなよ。」

「はぁ?」


岡田に聞いたのが間違いだった…
かと思ったが、明らかにわかる松本くんの変化には俺が一番気づいてる。

俺だけが…なんて自意識過剰なこと、もう言えなくなっちゃうな。