潤side
部活で忙しい櫻井くんと放課後に時間を合わせるのは思ったよりも大変で、だからいつも先に帰る僕はサッカーに励む櫻井くんを覗きつつグラウンドの横を通って帰っている。
「松本くーん!」
ボールがこちらに向かって転がってくるとそれを追うように櫻井くんが走ってきて、僕の存在を確認するとにこりと笑って手を振ってきた。
「櫻井くん…!
ダメだよ、呼んだりしたら。」
「どうして?」
「サボってると思われちゃうよ?」
「大丈夫、まだ1年だけの自主トレ時間だから。
これから先輩達が来てからが本当の練習だし。」
暑そうに汗を袖で拭った。
彼女がマネージャーとかならこういう時タオルとか渡したりするのかな?
それって漫画の世界だけ?
さすがに運動部でもない僕はタオルなんて持ち合わせていないけど。
「それよりも約束したくせになかなか本選びに行けなくてごめんね。
毎日一人で帰ってるんでしょ。
早く一緒に行きたいんだけど…」
あれからいつもことある事に申し訳なさそうに謝られてしまう。
「僕には予定なんてないしいつでも大丈夫。
櫻井くんの都合のいい日でいいから、ホント気にしないで。部活頑張ってね。」
「うん!松本くんにそう言われるともっと頑張れそうだ。」
「そう…?」
「次のオフは絶対に行こうね!
あ、集合だ。また明日!」
集合の合図とともに櫻井くんは戻っていった。
ボールを一生懸命に追いかける櫻井くんは一段とキラキラしてる。
いつか試合も見に行きたいな…。
見に来てと言われた言葉を思い出しては、ちょっとだけ口元が緩んでしまった。
「えーと…、何がいいかなぁ。」
櫻井くんには僕の好みで…なんて言われたけど、やっぱり紹介するにはちゃんと下調べをしたいと思って、ここ最近では帰りに本屋に立ち寄るのが日課になっている。
それでも手に取るのはお気に入りの作家さんの作品や好きなテイストの話ばかりであまり下調べの意味もなく、挙句の果てには来ては一冊づつ購入してるから、本は増えるし、金欠気味でもあるし…。
櫻井くんの部活がオフになる前に僕の財布がオフってしまいそうだ。
この際だからこの中から櫻井くんに貸すとか…。
僕のオススメだからって無駄にお金使わせるのも悪いし、それに毎日部活も忙しい。
せっかくのオフ日なら僕なんかと出かけずに休みたくはないのだろうか…。
後向きな気持ちがぐるぐると回る。
一緒に行ってくれと言われて嬉しいには嬉しいんだけど、でも緊張の方が大きくて、櫻井くんを見る度にまだ来ぬその日を想像してはドキドキしてる。
僕ばかり、こんな気持ち…。
櫻井くんには迷惑でしかないのに…。
友達になれただけでも十分。
仲間に入れてくれるだけでも十分幸せ。
これ以上の幸せはバチが当たりそうだ。
「松本くん! 松本くん!」
次の日、朝練を終えた櫻井くんは僕の席まで走り込んできた。
まだトレーニングウェアのままで早く制服に着替えないとならないのに、それよりも先にと僕のところへ。
「ど、どうしたの!?」
「今日放課後先生が会議だって!
練習はなしで急遽オフだって!
だから行こう!今日行こう!
どう?松本くんは予定大丈夫?」
「…うん、もちろん。
僕は何もないから…」
「やった!やっと行けるね!
ずっと約束してたのに遅くなってごめん!」
「だから謝らないで…。
僕はいつでもよかったんだし…。」
「放課後が楽しみだよ。
早く授業終わらないかなぁ。」
「ふふ、まだ朝だよ?
櫻井くん、それより制服は?」
「あ、やべー。
着替えてくる!」
「完璧な櫻井くんでもどこか抜けてるとこもあるんだね。」
「こんなことあんまりないんだけどさ、早く松本くんに知らせたくて。」
「…わ、わざわざありがとう…。」
櫻井くんはいつも真っ直ぐな気持ちを伝えてくれる。
だからいつも会話の終わりにはこちらが照れてしまうんだ。
帰りのホームルームが終わって隣を見たら櫻井くんにアイコンタクトで「行こ」と言われたような気がして席を同時に立つと、
「櫻井!今日オフだろ?
カラオケ行こーぜ!」
「カラオケ!?いいね!
みんなで行かない?」
あっという間に櫻井くんの周りには人だかりができていた。
「ダメだって、俺は今日用事が…」
櫻井くんが必死に断ってるけど、なかなかその輪の中から抜けれないでいる。
人気者は大変だ…と見ているしか僕には為す術がない。
櫻井くんの貴重なオフ。
みんなもきっと櫻井くんと遊びに行きたいんだよね…。
僕はそっとその場から離れた。
靴箱に向かい、靴に履き替えて昇降口から門の外に出る。
いつも家族との連絡ツールでしかなかったスマホを取り出すと交換したばかりのLINEから櫻井くんの名前をタップしてメッセージを送る。
『また次の機会でいいよ』
打ち込むとポケットに仕舞った…。
しょうがない。
いつか、また…
「よくない!」
…………え?
「さ、櫻井くん…っ、」
グッと掴まれた肩。
驚き振り返るとスマホ片手に息を切らした櫻井くんが僕を追ってきてくれたのだと一目見てわかる。
「遅くなってごめ…、
巻くのに手間取った…っ、ケホッ!」
ゴホッゴホッと咳き込む櫻井くんの背中を摩った。
「そんな、無理して来なくても…、」
「なんで…こんな、LINE…」
「僕のことはいいから。
みんなも櫻井くんと一緒に遊びたいはずだと思って…」
「先約は松本くんだろ?」
「…でも、なんかみんなに悪くて…」
「俺が…」
「…?」
「俺が松本くんと一緒にいたいって言っても?
それでも他の人を優先なの?」
懇願するような目で見つめられて、僕は俯いて首を振る。
「そんなことない…。
僕もずっと楽しみだった…。」
「…なら、行こうよ。
俺も楽しみにしてたんだからさ。」
息を整えた櫻井くんは僕の手を引いて歩き出した。