翔side
「潤くん!おめでとー!」
事務所に行くと早速カズが駆け寄ってきて潤に飛びついてきた。
「ありがとう、ニノ。
ニノもおめでとう!」
「ありがとう、潤くん♪」
潤に笑顔を向けられてカズもまた笑う。
カズもまた主演男優賞に選ばれ、最終選考にノミネートされていた。
同い年の二人。
カズに憧れていた潤がカズと同じ舞台に立つ日も近いんじゃないか…
俺はまだ引き出せていない潤の未知なる可能性を未だ感じている。
天才型のカズ、憑依型の潤。
一番初めに二人を共演させたことは俺の経験上、例にないほどの化学反応を起こさせていた。
昨日はあんなこともあり、今後潤が現場に行くのを怖がって芝居をすることさえも諦めそうになったら…なんて、そんなこと少しでも心配した俺は愚かな奴だ。
潤がやっと掴んだ夢はそんな簡単に手放していいものじゃない。
だって、潤の目はあんなにも輝いているじゃないか。
受賞の知らせを聞いて、嬉し涙を流して、カズと一緒に喜びを分かち合う。
俺の望んでいた景色がこうして目の前にある。
カズは俺にとってはかけがえのない家族、
潤ともゆくゆくは…。
「二人で受賞できるなんて、我が事務所始まって以来の快挙だ。
こんな小さな事務所だけど、これからもよろしくね。」
「そんな、、こちらこそこれからもよろしくお願いします。」
智くん…、社長からも労いの言葉をもらい潤は嬉しそうに照れている。
俺がいない間、潤を見守り続けてくれた智くんには今後もずっと頭が上がらないだろう。
俺がスカウトをしたいと言った時は潤に手を出されるんじゃないかと警戒したが…
「潤くん、照れちゃって可愛い〜。」
「お、大野さん!?」
「…社長、抱きつく必要はありませんから。」
「ケチ〜、ちょっとくらいいいじゃーん。」
「気安く潤に触らないでください。」
ちょっと油断するとすぐこれだ。
世話にはなったが、それとこれとはまた別の話。
潤にベタベタすることは智くんであっても許さん。
「ほらほら、みんな並んで!
受賞した記念に写真でも撮ろ♪」
「まだ授賞式は先だよ?
なんかそんな記念写真とか大袈裟じゃない?」
「ニノちゃん!何言ってんの!
今日という日は今日しかないんだよ!
授賞式はまたカッコよく撮るから♡
今はこうさ、自然な表情を撮りたいんだ。」
「じゃあ、みんなで撮らない?」
「潤ちゃん?」
「みんなで撮りたいんだ。
みんなの支えがあっての賞だから。」
「…潤」
俺達のことでみんなには伝えきれないほど感謝してる。
潤もそれがわかっている。
これまでみんなと過ごした時間は潤にとってかけがえのない日々だった。
わかるよ、俺にも。
「社長。」
「なぁに、翔くん。」
「これからまた忙しくなりますね。」
「だね。発表になってから二人へのオファーが早速来てる。
個人もそうだけど二人での共演の話も。
最初の映画が今になって効いてるね。
翔くんの狙い通りだ。」
「潤は見た目に華があるし、インパクトを残すには絶大な効果があることは見えていました。
演技自体はまだ未熟だったけど、カズとは波長が合うと感じてましたし。」
「だから最初からあんなに難しい役を?」
「潤ならやれると思っただけです。」
「絶対的な信頼だね。
翔くんが惚れ込むわけだ。」
「で、忙しくなる前に…」
そばにいた潤の腕を引き、こちらに呼び寄せる。
「これから出てもいいですか?」
「…え?今から?」
「元々今日はオフの予定だ。」
「もちろん、いいよ。
翔くんに潤くんのスケジュールも任せてあるわけだし。」
「ありがとうございます、社長。」
「ちょっと…翔?」
潤がこそっと耳打ちする。
「みんながせっかく集まってくれてるのに…」
「俺は潤との時間を大切にしたい。」
「それは…僕も…、そうだけど…」
「さっき言いかけたこと、教えて?」
「…っ、気づいてたの?」
電話が掛かってくる直前、潤は言いかけた言葉を飲み込んだ。
俺が潤の声を見逃すと思う?
全部聞きたい。
潤の気持ちのひとつひとつを。
言葉のいっこいっこを。
潤の全部が欲しいから。
「あのね…、
行ってみたい場所があって…」
──────────
「海に行きたい。」
潤は迷いなく行き先を告げた。
だめかな?って、揺れる瞳が無言で問う。
潤と海、、
意外な組み合わせだな…。
これまで俺の知る潤はインドアなイメージを持っていた。
本を読んだり、料理をしたり、映画鑑賞をしたり…なにより日焼けなど一切無縁な白い肌がそうだと言わんばかりだ。
そんな潤が海に行きたい理由はなんだろう。
そこに俺と行く意味が潤の中には確かにある。
いいね、それを今から解き明かしに行こうじゃないか。
「行こう、いますぐ。」
俺は潤を連れ、車に乗り込んだ。
ザッ…と海岸に打ちよせる波が陽の光を受けて、キラキラと輝いている。
『海に行くのならオススメしたい場所があるよ。
人目もなくて、のんびりできる俺の千葉。』
雅紀の地元、千葉までドライブをしながら目的地へと到着。
言われた通り、人は遠くに見える釣り人くらい。
オフシーズンということもあるが、この場所には俺達以外、誰もいない。
天気がとてもいい。
俺は持ってきたつばの広い帽子を潤に被せた。
「日に焼けるから。」
「…ありがと。」
「少し歩く?」
「うん!」
海なんて俺も小学生の海水浴以来かもしれない。
久しぶりに来た海だけど、気候のせいもあってか開放的で海風が心地いい。
波打ち際をぴょこぴょこ跳ねるように歩く潤の姿はとても無邪気で思わず俺の心も弾むようだ。
「転ぶなよ。」
「だーいじょーぶー、、…わぁっ!」
「おいっ!」
言ってるそばからこれだ。
砂に足を取られてよろめいた潤の肩を咄嗟に抱いた。
「やはり目が離せない…。」
「あは、ごめんね。」
「なぁ、潤…」
「なに?」
「なぜ海に行きたかったんだ?」
「大した理由なんてないよ。」
「そうなのか?」
「…うん。」
「じゃあ、その大してない理由を聞かせてよ。」
「えぇ…?ホントに改めて言うほどの理由じゃ…」
「いいから。」
しつこいかもしれないが、気になるものは気になるんだ。仕方がない。
「デート…」
「え?」
「デート…してみたくて…。
定番な…、普通の、よくあるデート…。
ただの憧れだよ。
学生の頃、周りで盛り上がってたの聞いてたし、ドラマとかでそういうシーン見たりとか…。
そういうベタなデートってしたことなかったから。」
「そうなのか?一度も?」
「うん…」
「そっか……」
「ちょっと、、なんでニヤニヤしてるの?」
潤がどこまでも純粋で、しかも初デートが俺とか…
なんなら俺もこんな風にデートだなんてしたことがない。
恋愛を楽しむということすらそもそも俺の教科書にはなかった。
「手、繋ぐ?」
「え…」
「あるだろ?海でそんなベタなやつ。」
「…でも」
「誰もいないし、向こう岸からじゃ遠くて見えないよ。」
「じゃあ…、」
潤がそっと身体を寄せる。
恐る恐る俺の指に自分の指を絡ませ、俺はその手をぐっと繋いだ。
「ふふっ…、嬉しいな。」
俯くと恥ずかしげに笑う顔は帽子の影に隠れて見えない。
「…っ、んっ…!?」
だから俺はすかさずその帽子の下に潜り込むように屈んで潤にキスをした。
「ちょっと!翔…」
「ここまでがワンパッケージだろ?」
「……それは…そうだけど…」
「もう一回する?」
「ダメだ…よ…、…ぅん…んっ、」
「ん、ふっ…」
静かだ…。
何度も交わすキスの吐息と波の音しか聞こえない。
この世界には俺と君しかいないみたいだ。
「しょお…っ、」
俺は潤の太陽になりたい。
「やめる?」
潤を輝かせる光になりたい。
「や、めない…で…、」
潤の心をこれからも照らしていきたい。
「見られたらどうする?」
「いいもん、翔がなんとかするんでしょ。」
さすが、俺の姫。
俺のこともお見通しだ。
「真昼間から外でスるのもいいね…。」
潤が赤い顔をして、俺の頬をつねった。
「…変態。
でも、すき…。」
相変わらずの照れた表情に俺は何度も堕ちていく。
空は快晴。
涙の雨は演技の時だけでいい。
潤には晴れた笑顔がよく似合う。
ただ君に晴れ
END
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆
最終話、じっくり考えて書きたくて週をまたいでしまいました<(_ _٥)>
今回は?今回も?
色々と苦難がありましたが、最後まで楽しんで頂けたでしょうか?(*´ω`*)
あとがきもまたお付き合いくださると嬉しいです♪
ありがとうございました♡